写真提供/ COT TON CLUB 撮影/ 山路ゆか

レナード・コーエンの“詩”を歌うこと

 ルシアーナ・ソウザの新作は、06年に出版されたレナード・コーエンの詩集「Book Of Longing」をきっかけに生まれた。

 「前作でレナードの詩を二編取り上げたけど、もっと彼の詩を歌いたかった。私は本人に何度も会ったことがあるし、もちろん彼の曲も好きです。でも、それ以上に私にとって彼は最高の詩人。だから彼の詩に自作のメロディを付けたかった。レナードは詩人だから、一般人とは違った視点で世界を見つめていた。彼の詩には深い思索が感じられるし、ある種のダークネスをはらんでいる。そんな点に惹かれてきました。ただ、アルバムのために私が選んだ詩は、比較的シンプルで短めのもの。あくまでも音楽的なトリビュートにしたかったので、あえてシンプルな詩を選びました」

LUCIANA SOUZA The Book Of Longing Sunnyside Communications(2018)

 今回ルシアーナは、コーエンの曲をカヴァーするのではなく、彼の“詩”を歌うことを選んだ。しかも女流詩人のエミリー・ディッキンソンとクリスティーナ・ロセッテイ、そしてルシアーナの自作を含むすべての詩が、スコット・コリー(b)とシコ・ピニェイロ(g)、そこに自身による若干のパーカッションを加えたシンプルな演奏に乗せて歌われている。

 「私は、エラ・フィッツジェラルドみたいなスキャット・シンガーになりたいと夢見ていた。だから言葉が無くても、感情は表現できると思っていました。でも、プロの歌手となり、自分でも曲を作るようになって、言葉の重要性を強く意識するようになった。ジャズも詩も、解釈は人それぞれで、受け手の感性や経験に委ねられる。そんな自由さが、共通点だと思います」

 新作のプロデューサーは、ルシアーナの夫でもあるラリー・クライン。彼は、ジョニ・ミッチェルやマデリン・ペルー、メロディ・ガルドーなど女性アーティストから信頼を集めてきたことで知られる。以前、リズ・ライトに取材したとき、〈ラリーはこちらの話を一生懸命聞いてくれて、すごく感激した〉とリズは語ってくれたが、ルシアーナの意見はどうだろう。

 「そう、ラリーは他人の音や意見を尊重する。大抵のプロデューサーは、歌や演奏をほんのさわりだけ聴いて、すぐに判断を下すけど、彼はじっくり耳を傾けた上で、自分の意見を述べる。それとラリーは女性が好きだから、女性アーティストも彼のことを好きになるんだと思う。そう、レナード・コーエンみたい(笑)。ただ、彼と一緒にいると、女性だけでなく、大御所のハービー・ハンコックも、子供も動物も、みんな居心地が良さそう。ラリーは人の話をよく聞いてくれるし、しかも私と違って、彼はゆっくり話す。とにかくラリーはとても忍耐強くて、だから信頼できるんです」