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【詩人・黒川隆介のアンサーポエム】特別編 パスピエ・大胡田なつき、三澤勝洸と語る、詩と詞のあり方

【詩人・黒川隆介のアンサーポエム】特別編 パスピエ・大胡田なつき、三澤勝洸と語る、詩と詞のあり方

気鋭の若手詩人・黒川隆介が洋邦/新旧を問わず、気になるアーティストの楽曲を1曲ピックアップし、その歌詞を咀嚼して、アンサーソングならぬ〈アンサーポエム〉を書き下ろすこの連載。今回は特別編ということで、黒川氏の友人でもあるパスピエのギタリスト・三澤勝洸さんと、パスピエの全作詞を務めるヴォーカルの大胡田なつきさんにお越しいただき、対談をしながらパスピエの楽曲や詩について、あるいはお互いの作詩・作詞の方法について伺っていきます。さらに今回の対談を受けて、黒川氏にはパスピエの楽曲のアンサーポエムを書いていただきます。


 

三澤さんとの出会い

――今回は特別編ということで、黒川さんとご友人であるパスピエのギタリスト・三澤勝洸さんと、ヴォーカルの大胡田なつきさんにお越しいただきました。お互いの作詞・作詩の方法を伺いつつ、この対談を受けてのアンサーポエムを黒川さんには書いていただきます。

黒川隆介「実は、すでに三澤くんに〈この曲で〉というのはいただいていて、すでに途中まで詩を書いてはいるんですが、今日お話を聞いた上で改めて書こうと思います」

――まずは黒川さんと三澤さんの出会いから教えていただけますか?

大胡田「私も知りたい」

三澤「昔、働いていた場所の近くに、音楽とか映像とかをやってる人が集まるバーがあって、そこに行くようになって。そこに通うようになってから彼と出会って」

黒川「当時そのお店で若いお客さんって、僕と三澤くんくらいしかいなかったよね。そこでいろんな話をするようになって。そこからは週1くらいで同じお店で会ってるね」

三澤「そうだね。いまだによく一緒に呑んでるよね」

 

バンドのなかの〈詞〉

――パスピエの音楽はいい意味で〈変さ〉があると思っていて。ナリハネ(成田ハネダ)さんの曲って普通ではないですよね。

三澤「いや本当変わってますよ」

――それに4人のメンバーもそれぞれ変わった部分、尖った部分があって、そこが魅力だと思っているんですが、そんな4人で楽曲や詞はどういう作り方をしているんですか?

黒川「たしかに。音楽に対するアプローチの角度がいつもいろいろあるなって思います」

大胡田「パスピエって99%、曲が先に出来るんですね。デモ曲がワンコーラス分来て、リハで尺を決めたりアレンジを考えたりしながら、私はそこで同時に詞を書くことが多いですね。その時に聴いた音とか、感じたものを、家でまとめるとか」

黒川「成田さんから〈この曲はこういうイメージ〉っていうのは来るんですか?」

大胡田「イメージを言葉で伝えられることはないんですけど、仮タイトルに例えば〈とおりゃんせ〉とか書いてあって、その言葉のイメージから書くことはありますね。その時に受けたイメージとか、いままで使いたいなと思って取っておいた言葉とかを、曲に合わせて使っていく感じです」

2013年の楽曲“とおりゃんせ”
 

黒川「楽曲のなかでギターはどういう立場にある?」

三澤「ギターに関して言えば、これまではデモに〈こんな感じがいい〉っていうギターのラインをナリハネが弾いたものが入っていたことも多かったんだけど、最近はギターも入ってなくて、〈これどういうギター入れよう〉って考えるところから始まりますね。だから曲の方向性は、バンドで大まかなイメージをみんなで共有しながら進めていくことが増えました」

黒川「そうやって作る楽曲のなかで、歌詞っていうはバンドの音とは明確に違うものだと思いますけど、どう入れていくんですか? 伝えたいメッセージを入れるのか、曲の世界観に合わせていくのか」

大胡田「歌詞の内容的には、リハで出来た曲に寄せようとは思っていて。自分の言いたいことがある時は、そういう曲を選んで差し込むっていう感じですかね」

黒川「歌詞の言葉が枯渇することはないですか?」

大胡田「自分のなかで枯渇することはないんですけど、〈この曲調、ちょっと苦手だな〉とかはあります。〈このメロディーに乗せる私の言葉かあ……どうしよう……〉って悩んだり」

黒川「なるほど。僕の詩は当然一人で完結するんですけど、詩が出来上がって読むと改めて〈この詩好きだわ~〉とか思うことがあるんです。バンドのメンバーはそういうのってあります?」

三澤「あるね。今回のアルバム(『more humor』)は特に多くて」

パスピエ more humor Atlantic(2019)

大胡田「そんなの言われてないぞ?」

三澤「言ったわ(笑)」

――近すぎる関係だとそういうのはあんまり言わないですかね。大胡田さんが作詞で苦しんでるところを、他のメンバーが見ることはあるんですか?

三澤「作詞で苦しんでるところを直接的に見ることはないですけど、何回か書き直してる時に〈大変そうだな〉って思うことはあります」

大胡田「基本的に私とリーダー(成田ハネダ)でやり取りをするんです。歌詞を書いて、〈どうかな〉って見せて、時には喧嘩をしたりとかもありつつ(笑)。歌ってみて違うから書き直したりとかもあるし。最終的には良いものが出来上がってるから〈ありがと〉って気持ちになるんですけどね」

 

歌う責任

――三澤さんは『more humor』の曲だと、どの歌詞がお好きですか?

三澤「“ONE”が好きですね」

――ということで今回、黒川さんには“ONE”のアンサーポエムを書いていただくんですよね。三澤さんがこの曲をお好きな理由は?

三澤「ここ1~2年くらい曲の作り方も変わって、打ち込みを導入して曲を作ったり、いろいろと試行錯誤してたんです。そこで培ってきたものの集大成というか、その間のいろんなことが凝縮されてる曲なんですよね。最初デモでもらった時はヒップホップのトラックみたいな感じで。そういうトラックものってギターが入ってないことが多いから、アレンジには結構悩みました。〈ギターの立ち位置どうしよう〉って」

――三澤さんのギターって、出るところと抑えるところが考えられてると思います。

三澤「抜き差しは考えますね。ウチは鍵盤もいるし、ベースもウワモノみたいに弾く時もあるので、引く時と出る時のグラデーションを常に考えてます。“ONE”はそういうことも踏まえて、最終的にアコギをストロークでガシガシ弾くというのに落ち着いて。PVでも森のなかで弾いています(笑)」

――“ONE”の歌詞はどういうところがお好きですか?

三澤「特定の部分というよりかは、歌詞全体の雰囲気として、この1~2年の出来事に通じるところがあって。人間って年齢や経験によって変わると思っていて、そういう変化を積み重ねていったものが、クリエイト(創作物)として出てる気がして」

大胡田「ふうーん」

――それは〈年輪〉みたいなものですか?

三澤「うーん……。〈いまの大胡田〉が出てる気がするんです」

黒川「例えば、歌詞って具体的なものから抽象的なものまでありますけど、僕が〈人を殺した〉っていう詩を書いた時に〈本当に殺したことあるの?〉って聞かれたことがあって。そういう歌詞と実体験って、どれくらい一致するものですか?」

大胡田「過去の歌詞はほとんど頭のなかの空想から生まれたものなんですけど……最近は結成10年になって、歌う責任というか、〈自分がなんでこの歌を歌うのか〉っていうことを一回ちゃんと考えたことがあって。その時に、〈人の興味を引き続けるものって、自分の生身を削ったものじゃないといけないんじゃないか〉と思ったんです。だから最近の曲は割と実体験を元に書いてることが多いんです。でも空想で歌詞を書くのもけっこう好きで、それもやめられないんですけど」

黒川「自分の経験してきたこと以上の表現ってなかなか出すのが難しいんじゃないかなって。例えば日々取り入れてる習慣とか、表現するためにしていることってありますか? 例えば僕は食べ物とか身体に入って来るものをすごく意識しています」

三澤「いろいろあるけど、やっぱり人と話すっていうことかな」

黒川「いつも音楽の話すっごいしてるもんね」

一同「(笑)」

三澤「そうだね。でも音楽の話じゃなくても、全然違う分野の人と話をして違った視点を持ったり。まあ、それがギターのプレイに直接的な影響はないんだけど、視野が広がるのがいいことだなって思うんだよね」

大胡田「視野の広がりってことでいうと私は、あるニュースがあった時、〈日本だとこういう書かれ方をしているけど、他の国だと違った書かれ方をしているな〉みたいなことを、記事を読みながらよく考えていますね。〈この国はこういう風習があるからこういうふうに捉えられるんだな〉とか。私の歌詞も、人によっては恋愛のことに捉えられたり、別のことに捉えられたりするので、そういうことは自分でも意識していますね」

黒川「二人とも、ひとつのものでも見る角度次第で違った見え方になるっていうことですね」

――歌詞は、聴く人それぞれの捉え方があっていい、ということですか?

大胡田「そういう曲も多いですね。その一方で『more humor』で言うと最後の“始まりはいつも”っていう曲は〈言いたいことを書く〉って曲で、そういう曲もなきゃいけないと思うんですけど」

三澤「でもそういういろんな考え方ができる余白って大事だよね」

大胡田「そうそう」

――黒川さんは、自分の経験してきたこと以上の表現という点ではどうですか?

黒川「僕はここ近年、僕という存在を通した〈人類〉という意識になってきて」

――何ですか? イタコみたいなことですか(笑)?

黒川「それに近くて、詩を書くのも映像を作るのも先人の表現者やアーティストがいて、そのバトンをもらって次の人にバトンを渡すだけの〈つなぎ〉みたいな感覚なんですよね。で、これまで取り入れたものや思想をフィルターにして、できるだけ濾過されたものを詩にしてるんです。その濾過する機械のスペックをどんどん上げようとしてる」

大胡田「その機械のスペックを上げるって具体的にどういうことなんですか? 自分のなかのヴォキャブラリーを増やすとか」

黒川「いろんな本を読むとか映画を観るとかもあるんですけど、生き物としての感度を上げるというか。子供の頃くらいの感度を持ちつつ、頭のキレや肉体は成長させる、みたいな相反することをひとつにしようとしてますね」

 

何のために作ってるか

黒川「曲や歌詞を作っていてどういう時に報われたり、達成感を感じたりしますか?」

大胡田「私はやっぱり人に喜んでもらえた時ですね。なんかいいヤツみたいになっちゃうけど(笑)。お客さんでもスタッフでも、メンバーでも、喜んでもらえた時がいちばん嬉しいな」

三澤「でもそういうことだよね。〈何のために作ってるか〉と言えば人に聴かせるために作ってるんだから、音源が出来たり、ライヴで曲をやったりして、お客さんが喜んでくれた時はいちばん嬉しいよね」

大胡田「もちろん、ちゃんと聴いてもらうための形にしないといけないから、自分のなかで折り合いはつけていくんです」

黒川「そういう折り合いはどうやってうまくつけていけるようになったんですか?」

大胡田「自分ひとりだけが頑張ってもしょうがない。それがバンドだから、そのバンドっていう縛りがよく働いてきたのかなって思います。メンバーが信頼できるようになってきたし、いろんな人からの反応ももらえるようになったし」

三澤「バンドって特殊だから、誰かひとりだけが良くてもダメだし、誰かひとりが良くなくてもダメだし」

黒川「バンドがうまく成り立ついちばんの秘訣って何ですか?」

大胡田「ウチは、成田さんがしっかりしてるからっていうのがいちばん大きいね」

三澤「まずそれはあるね」

大胡田「本当に努力家でしっかりしてて、それをそばで見てるから、〈私もやらないわけにはいかないな〉って気持ちになったり。だから、お互い励まされて、お互い尊敬できる部分があるから成り立つんでしょうね。三澤さんも、フレーズが生まれてめっちゃ喜んでるのとかを見ながら〈また寝てないんだろうな〉とか思ったり(笑)」

 

歌詞と詩の違い

黒川「詞を書く環境はどういう感じですか? 例えば音楽をかけながらとか、時間帯とか」

大胡田「音楽かけながらだと何もできないんですよ。あと書く時は絶対にひとりで書きたい。時間帯は……不規則な生活してるんで決まってないんですけど(笑)、書き方はスマホのEvernoteを使って書いたり、ペンで大きな紙に書いて部屋に貼ったりとか、鉛筆が好きなので鉛筆を使ったりとか。楽器を弾きながら書くことができないので、書く素材で気分を変えてますね。あと、文字と声色の関係は必ず気にするようにしてます。文字として読んでも良いけど、声に出して歌った時にも良さを感じられるものにしないとなって」

黒川「歌詞を完成させるのにはどれくらい時間かかります?」

大胡田「私はすっごいムラがありますね。一か月ずっとやり取りしてる歌詞もあったし、得意な曲調のはすぐ書けちゃったりもするし」

――ポエムの詩と楽曲の詞で違うのは、歌詞ってもしかしたら何百回と歌わなきゃいけないもので、ポエムはポエトリー・リーディングでもしない限り何度も声に出したりはしないところかなと思うんですが、何百回と歌うなかで例えば飽きてきたり、逆に最初になかった愛着が湧いてきたりとかはありますか?

大胡田「ああ、ありますね。私、けっこうライヴしてたら途中で好きになることが多くて。たまにイヴェントとかで昔の曲をやることになって、〈これ書いたな~〉って作った当時と違う気持ちで歌ったりとか。〈みんなも、いまの自分とは違う聴こえ方をしてるのかな〉って思いながら歌うこともあります。だから、ものは変わらないけど形は変わりますね」

三澤「そっか。歌詞は変えようがないもんね。楽器はその時のバンドのモードによって、けっこうアレンジを変えたりとかするけど」

黒川「これまでに胸を打たれた詩とか文学作品ってありますか?」

大胡田「寺山修二さんの詩で、詩の形がハート型になっているものがあって(「ハート型の思い出」)、文字で読むだけじゃなく見た目からのアプローチもできるんだなって思って、〈やられた〉って思ったのを覚えてます」

三澤「『明日の記憶』っていう荻原浩さんの小説があって、主人公のお父さんが若年性アルツハイマーにかかってしまう話なんですけど、小さい頃から言われてきた〈人間、いつ死ぬか分からないよ〉っていうことを本当に実感して。いまは幸せだけど、明日はないかもしれないんだって。だからいまを頑張って生きようって思った作品なんです」

――それでは、この対談を受けて、黒川さんには“ONE”のアンサーポエムを書いていただくんですけど、いいですか?

大胡田「楽しみです」

黒川「いちファンとして書くものでもあるし、この対談から生まれたものでもあるので、楽しみにしてください」

 
 

 


LIVE INFORMATION

パスピエ結成10thアニバーサリー公演
〈十周年特別記念公演 “EYE”(いわい)〉

2020年2月16日(日)東京・昭和女子大学 人見記念講堂 
開場/開演 17:00/18:00
チケット:5,000円(税込)※全席指定 ※小学生以上チケット必要
一般発売:11月1日(土)~

パスピエ 結成10周年記念特設オフィシャルサイト
http://passepied.info/feature2/p/10th_anniversary

パスピエ オフィシャルサイト
http://passepied.info/

 

PROFILE:黒川隆介
神奈川県川崎市出身。16歳から詩を書き始め、国民文化祭にて京都府教育委員長賞受賞。「詩とファンタジー 寺山修司抒情詩篇」に山口はるみ氏とのコラボレーションで掲載。柏の葉T-SITEにて登壇、ファッションブランドとのコラボレーションなど、近年、詩と映像を軸に広く活動中。

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