……。たぷ

 ギャグ漫画家の藤岡拓太郎は、自身のSNSなどで発表してきた1ページ漫画をまとめた「藤岡拓太郎作品集夏がとまらない」(ナナロク社)を一昨年に刊行。書店と連携したイヴェントや購入特典など発売後も楽しませてくれたが、当初特設ページで公開していた制作日記などからも伝わるそのこだわりや姿勢は、たくさんの人に彼が知られるそして愛されるきっかけにもなっただろう。昨年10月に発売されたチャットモンチーのベストアルバムの発売記念でのコラボにも驚かされた。

藤岡拓太郎 たぷの里 ナナロク社(2019)

 そしてこの夏も拓太郎はとまらない。笑いと映画とラジオと大相撲を愛する彼の第2作目は絵本。“対象年齢は赤ちゃんから君まで”。自分が対象であることになんとなく心が弾む。目のチカチカしない少しくすんだ色使いの、誌面を贅沢につかった1ページ1ページがなにか懐かしい。表紙のとおり、たぷの里はたぷたぷのおなかをたぷっとしにくる。唐突なたぷの里の登場にまだついていけないおそらくほとんどの読者の各々の頭の中には、クエスチョンマークとともに「だれ!?」とか「何者!?」あたりが浮かんでは消えているだろう。ページをめくるとたぷの里がいて、まるで時間が止まったかのように、「だれ!?」となるその静かな瞬間を、みんなと共有する。ぷぷっと吹き出す。小さい子どもは「たぷ」というオノマトペに初めて出会うかもしれない。そうか 「たぷ」か。「たぷ」だね。ぷぷぷ! 声に出してみる。じわじわ笑いが込み上げてくる。ああ。わからないや知らないっておもしろい。

 本が発売された後も藤岡拓太郎はSNS上で新作を惜しみなく発表している。と同時に“紙をめくって読むことは絵本にとってはとても大事なことのようです”という彼の以前の日記のメモには“Twitterで発表する漫画は打ち上げ花火。本は手紙。”とあった。無敵だな、と思った。