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カッコイイと思うことをやれている

 楽曲のテイストの広がりとともに、バンド全体の表現力も大きく向上している。まずは中野の歌。従来の性急で荒々しいヴォーカルに加え、〈歌をしっかりと届ける〉という意識が強まっているのだ。

 「昔の歌謡曲を聴いていると、じつはサラッと歌っていることもあって、それがすごく良かったりするんですよね。私はいままで〈自分の感情を込めればいい〉とか〈気持ちが盛り上がっていればいい〉と思ってたところもあったんですけど、あえてサラッと歌うことで、聴き手のなかに入っていきやすくなることもあるんだなって。そうやって客観的に考えられるようになってきたんだと思います、少しずつ。もちろん、ブルースっぽいフィーリングも大好きなんですけどね。バンドを始めたときから、自分が歌うんだったら、ブルースのフィーリングは絶対にあってほしいと思っていたので。そのうえで、日本的なメロディーも歌えるようになりたいんですよね」。

 また、メンバーひとりひとりのプレイヤーとしての成長によって、バンドのアンサンブルも深みを増している。鋭利でシンプルなギター・リフを中心にしたロックンロール・ナンバー“DRY DRIVE”、濃密なブルースをたっぷりと含んだ演奏が印象的なミディアム・チューン“どしゃ降り”、切なくも愛らしい恋愛模様を描いた歌に寄り添いながら、豊かな情感に満ちたサウンドを体現した“行方”、モータウン的なリズム・アレンジとカラフルかつポップなメロディーがひとつになった“かもめのBaby”。オーセンティックなロックンロールを基軸にしながら、より芳醇な表現を備えた音楽へと結びつける──そんな彼女たちのトライは、本作によって大きな成果を上げていると言っていいだろう。

  「“かもめのBaby”はまさに、あのリズムをやってみたくて作ったんですよ。モータウンは意識してなかったんですけど(笑)、みんなで合わせたら楽しかったし、〈こういう感じもアリかもしれないな〉って。いいメロディーを付けられたと思うし、Drop’s的にも新しいことがやれたんじゃないかな。“行方”の間奏にもすごくこだわりました。歌がない部分でも、感情をしっかり表現したいと思って。曲の元になるアイデアは私が持っていくことが多いんですけど、メンバーのアイデアやニュアンスも、いままで以上に入ってると思います。メンバーに任せられる比重も増えたし、それをまとめる力も付いてきたし……。そういうところもいまのDrop’sの強さなんじゃないかって」。

 Drop’sはこの後、『HELLO』の楽曲を中心としたライヴを展開していく。みずからのルーツ・ミュージックをさらに深く吸収しつつ、よりポップなテイストを加えた本作は、このバンドにとってもひとつのターニング・ポイントになりそうだ。

  「ポップなこともやってるし、いろいろと新しいことにもチャレンジしたんですけど、自分たちがカッコイイと思うことをしっかりやれているし、ロックンロールなアルバムだと思います。好きなことをやりながら、〈王道〉とか〈スタンダード〉と言われるような曲を作って、長く愛されるバンドになる。それが自分たちの目標ですね」。

 

▼関連作品

Drop’sの2014年のEP『コール・ミー』(STANDING THERE, ROCKS)

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