オンド・マルトノは不思議な楽器だ。空気中の気配をつなげて音楽にしている、そんな印象を聴くものに抱かせる。エクトプラズムのような前々世紀の科学をあらぬ方向に牽引した疑似科学的な概念が一方では人間の想像力を刺激した。空間に漂う官能的な音を響かせるオンド・マルトノもこうした想像の産物の一つかもしれない。本作は、まだまだ不可解なこの楽器に眠る素質を見極め、能力を覚醒させるための作曲家と演奏家の、音の新しい手触り、あるいは懐かしい触感を愛でる試み。オンド・マルトノ奏者、大矢素子と邦人作曲家たちが開くこの楽器の魅力に感応するとともに、終曲の未来派野郎のセンチメントに感動。