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自身の立ち位置と居場所

 トロイ・シヴァンを迎えた先行シングル“1999”では、スパイス・ガールズやエミネム、「タイタニック」や「マトリックス」といった映画までをパロディーにした彼女。90年代~00年代にかけてのヒット曲やポップ・カルチャーへのオマージュが溢れていたのは、アルバム全体も同様だ。もちろん最新テクノロジーと現代感覚で抽出されたリモデル・サウンドであり、当時とは異なっているのだけれど、どこか既視感のあるヴァーチャル・リアリティーのような、そんな不思議なノスタルジックなワクワク感を携えている。大ブレイク中のリゾをフィーチャーした“Blame It On Your Love”、クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズと組んだ“Gone”などがその好例だろう。これらの先行シングルは比較的キャッチーで一緒に歌えるタイプだが、その他はかなりひねくれたポップソングも多数並ぶ。電子ノイズやひしゃげた破壊音が暴れたり、まるで〈メインストリームのポップスをぶっ壊す!〉と言わんばかりの気迫で挑戦する。チャーリー自身の歌声も、ほとんどボーカロイドかAIかというほど加工されており、バックのシンセ・サウンドのほうが温もりを感じさせるほどだ。これまでになくパーソナルで赤裸々な歌詞を歌うにあたって、彼女が見つけた緩和剤のようなアプローチなのかな、という気も。なかでもゲストを迎えずに制作された中盤の“White Mercedes”~“Silver Cross”~“I Don’t Know”の流れは、最大の聴きどころだろう。屈折しているけれどスウィートなサウンドは、聴き返すたびに再発見がありそうだ。

 一方、豪華ゲストの顔ぶれも、もちろん本作の聴きどころで、とにかく曲者アーティストが大集合の様相だ。前出のアーティストの他、スカイ・フェレイラ、ハイム、ブルック・キャンディ、キム・ペトラス、パブロ・ヴィタール、ビッグ・フリーダ、カップケーキ、クライロなどなど、国籍やセクシュアリティーを超えた強者たち。ある意味マイノリティー側のアーティストである点にも注目したい。いまならどんな大スターだって呼べそうな彼女だが、あえてそういう人たちを呼び寄せ、囲まれることで自身の立ち位置を明確にしているという気がする。

 昨年11月のテイラー・スウィフトの東京ドーム公演では、全米ツアーに続きオープニング・アクトを務めた彼女。とにかくオーディエンスを盛り上げることを一心に、いつになくアッパーでパワフルなステージを展開した。もちろん巨大なスタジアム・ツアーは彼女にとってまたとない経験だったはずだが、同時にそれは自身の居場所を再確認する機会でもあったに違いない。チャーリーXCXというアーティストが何者なのか、一体どこへと向かうのか。自身の名前を掲げたアルバム『Charli』に、その回答がすべて詰まっている。

チャーリーXCXの作品を紹介。

 

『Charli』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

チャーリーXCXが参加した近作を一部紹介。