国府達矢
昨年届いた15年ぶりの衝撃と対をなす2作品。〈光〉と濃淡の異なる〈影〉が合わさるときに見える世界とは……

 昨年、15年ぶりのオリジナル作『ロックブッダ』で注目を集めた国府達矢が、そこからわずか1年で2枚の新作を同時リリース。これらは『ロックブッダ』の制作が止まっている時期に作り貯めた曲をもとにしたものだというが、音を彫刻するように立体的な音響で作り上げた同作とは、サウンドの方向性がまったく違う。

国府達矢 スラップスティックメロディ felicity(2019)

 『スラップスティックメロディ』は、音響的な装飾はほとんどないなかでエレキ・ギターがラウドに鳴り響く。国府のシンガー・ソングライター的な側面がストレートに伝わる作品で、アルバムの主役は胸に迫るメロディーであり、力強さと繊細さを併せ持った歌声だ。歪んだギターとエモーショナルな歌声のコンビネーションはジェフ・バックリーを思わせる瞬間もある。

国府達矢 音の門 felicity(2019)

 一方の『音の門』は、初めて歌詞を先に書いて曲を作ったアルバム。『ロックブッダ』の制作がなかなか進まず、鬱屈した日々のなかで頭に浮かんだ言葉をメモして、それをもとに歌詞を作った。こちらはアコースティック・ギターが中心で、歌詞もサウンドもギリギリまで削ぎ落とし、音の余白には緊張感が張り詰めている。エレクトロニックなサウンドではないけれど、ジェイムズ・ブレイクを思わせるような、内省的で、どこか危うさを漂わせた歌を聴くことができる。『ロックブッダ』が〈光〉なら、今回の2作は濃淡の異なる〈影〉。3作品を合わせて聴くことで、さらに大きな世界が見えてくるはずだ。