うわ、幸せだな

――といったあたりでシングルの話を。まずは“断捨離彼氏”。

戦慄「これは見事にかぶってしまって……femme fatale(戦慄かなのと頓知気さきなによる実姉妹ユニット)で“down shout leaf”っていう曲があるんです」

大森「“family name”を作る前に、家族も彼氏も捨てようって曲をファーストにしようとしてたんです。けど“family name”ができちゃったから、“断捨離彼氏”をセカンドにしようとしたら〈femme fataleで断捨離の曲を作っちゃったんですけどうしましょう〉って連絡があって。なんかもう、かぶってるほうがいいんじゃない?ってことになりました(笑)」

戦慄「人間関係を断捨離するのっていいじゃないですか。それで男を断捨離する曲を作ったら、ZOCで“断捨離彼氏”が出てきて」

大森「一緒やんって(笑)。ZOCのほうは、言うのも申し訳ないんですけど、ZOCのファンの方は、ライヴが初めてっていう人も多いから手拍子がズレがちなので、日頃から音楽聴いてない人にも拡がってるんだなっていうのが伝わるんです。なので、リズム感をファンに身につけさせたいという」

――鍛えるための曲でもある。

大森「リズムが強いし、〈ここで一回休んで、ハイ、また始まる〉っていうキメとかも作って。機能的に優れているようにしました。あと、リズムにハメるために〈DONE DONE〉を入れたかったんです。(FIELD OF VIEWの)“DAN DAN 心魅かれてく”ってあるじゃないですか。その逆がいいなと思って、だんだん心が離れていく様をリズム重視で作った曲です」

――歌詞に〈DVとか〉と出てきたりすると、かてぃさんが思い浮かんでしまいます。

香椎「懐かしいっすね」

藍染「懐かしく思うんだ(笑)」

香椎「歌詞を見たときにほとんど経験したことあると思いました。〈金貸して〉とか。よくお父さんの金を借りて彼氏に渡してました」

兎凪「つら……」

大森「〈また貸したでしょ〉って訊くと〈貸してない〉って言うんですけど、鼻の穴が膨らむんですよ。〈ああ、貸したな〉って(笑)」

香椎「もっと早くこの曲に出会えればよかった。DV男とか早く別れたほうがいいっすよ。かなのはDVする側?」

戦慄「しないわ!」

大森「どんな質問だよ(笑)」

藍染「私の新衣装は腰に鞭がついてるんですよ。DVする側(笑)」

戦慄「とか言ってMだろうが!」

香椎「衣装は天下一武道会をイメージしてるんですけど、カレンはもっと変態っぽくなると思ってたんですよ。着こなしてしまった」

藍染「私をどうしたかったんだ……。衣装はかてぃプロデュースなんだよね」

香椎「靖子さんと暑い原宿を歩き回りました」

――天下一武道会がイメージなのは……。

大森「“DAN DAN 心魅かれてく”なので『ドラゴンボールGT』かと思いきや、それとは関係なく、かてぃがただ天下一武道会にしたかったみたいです」

香椎「ZOCってドラゴンボールっぽいなと思って。天下一武道会に出たら強いんじゃねって。ここ(香椎・藍染)が悟空とベジータって言われることが多くて」

兎凪「さやかはなんて言われたんだっけ?」

香椎「魔人ブウ」

大森「それシンプルに悪口だよ(笑)」

戦慄「私は?」

香椎「かなのだけ『ONE PIECE』っぽい。ナミとかロビンとか」

藍染「顔から下の話してるでしょ」

大森「かなのだけ体型の話(笑)。“断捨離彼氏”も“A INNOCENCE”も、ZOCの説得力でもってZOCのファンの子に言ったらいいだろうなっていうことを書いてます。曲を聴いたらファンの子の悩みは大体解決すると思う」

――“A INNOCENCE”はメンバーが実際に話してきたような言葉も反映されていて。歌い出しから戦慄さんのエピソードですよね。

戦慄「成人式で嫌いなやつと写メ撮った……」

大森「〈20年生きてはじめて 幸せって思った〉はにっちやんの歌割なんですけど、新宿で歩いてたら、かてぃが急に〈20年生きてきて、いま初めて幸せっすよ〉って言ったんですよ(笑)。それをすごく覚えていて」

香椎「急に湧き上がってきて。うち、新宿めっちゃ嫌いなんですよ。嫌いなのに、新宿の街で〈うわ、幸せだな〉と思えて。新宿で靖子ちゃんの“新宿”を聴くのは唯一好きなんですけど、新宿は嫌いなんですよね」

――渋谷は好き。

香椎「好きっす」

藍染「街にそんなに愛着あるのがすごい」

兎凪「新宿でご飯食べようとすると〈渋谷にして〉って言うんですよ」

香椎「でも、こないだ歌舞伎町の路上で友達とお酒を飲んでたんですよ。もうこわくて歩けない……って2人でうずくまってたら、ブランドまみれのキャッチみたいな人が3人くらい来て〈香椎さん、お疲れさまです!〉ってiPhoneケースの裏のチェキを見せてきて。わりとキャッチに存在を知られてるっぽい」

戦慄「最近、ホストにめっちゃ声かけられる。〈戦慄さんですよね?〉って。たぶん、ホストのお客さんの女の子でZOCのファンがけっこういるんだと思う」

西井「それな」

大森「私の曲を聴いてる人がホストに貢ぐ人多いっていうのもあって」

――なるほど。〈成長過程をみせるのが アイドルだって聞いた〉というくだりはまさに前半に話していたようなことですよね。

大森「そもそもアイドルって最初からできる人たちではないというか。私はハロー!プロジェクトが好きですけど、いちばん好きなのは道重(さゆみ)さんだし、道重さんのパフォーマンスが好きだし。苦労して苦労して、できていく様をすべて見せてくれるというのが応援できる。最初からスーパーマンで完璧にパフォーマンスできる人が好きなわけじゃないよなっていうのはある。かなのは声量がなくて、私の曲を歌うのに向いてないときもあるんですけど、この感じで歌いたいというこだわりをすごく持っていて。それなのに、〈こう歌うほうがかっこいいからこうしろ〉って言われるのは違うと思うんです。世間が求める正解にはめ込もうとされるのと、私がZOCでやりたいこととは真逆だなと感じていて。それをどうにか本人たちの歌う言葉で言えないかなというのは考えた気がします」

戦慄「流石に〈完璧じゃない〉とか〈ヘタクソ〉だって叩かれ続けると靖子ちゃんに申し訳なくなってくるんですよね。だから、靖子ちゃんがこの歌詞を書いてくれたことで救われたというか。ZOCを見てくれてるし、愛がすごく伝わって、幸せな気持ちになりました」

大森「かなののやってることは難しいんですよね。ダンスも近くで撮ると映えるし、スタジオだといちばんうまいんですけど、大箱で遠くから見て映えるダンスということだと、リーチがあるカレンのほうが良く見えるし、声にしても、かなのはレコーディング向きなんですよね。何に向いてるかというのは自分も悩んできたんですよ。ずっとライヴしてきて、初めてレコーディングしたときに、思ったようにできなかったりして。そういう挫折もいっぱいあったので、なるべく近道して教えたいって気持ちはあるんです。ズルさせたい。教えられることは教えたいし、そのために私がメンバーとして入っているから、むしろそれができていないんだったら私の責任だなと思います。いちばん心苦しいのは、それで本人たちがライヴが楽しくなくなるとか、見られるのがイヤだなってなることで。ライヴは楽しいものであってほしいなって思います」

――実際、ファンはZOCの成長過程を見ているし、そこにグッときている人もたくさんいると思います。レコーディングは以前よりやりやすくなったんじゃないですか?

大森「それはもちろんあります。“にんげんっていいな”って曲があるじゃないですか。それに合わせて〈ボイトレっていいな〉って一日中歌ったくらい(笑)。さやぴ(兎凪)とかてぃがいちばん変わったかな」

藍染「すごい楽しくボイトレのレッスン受けてるよね」

兎凪「私は自分に自信ないタイプの人間だから、うまくなったかどうかわからないけど、褒められたらニヤニヤしちゃいます」

香椎「いや、わからないっていうのは嘘ですよ。ボイトレの先生に調子を聞かれたら〈んー、最近いい感じです♡〉って言ってた」

兎凪「やめてよ!」

西井「ちゃんと実感してた(笑)」

――兎凪さんも影で努力してますもんね。

兎凪「叩かれすぎて、みんなに追いつかないと死ぬと思って。1日に何時間か練習するようになったら、rikoちゃん(ZOCの振付け担当)に褒められるようになりました。MV撮影のときも、大学の予定があってレッスンになかなか行けなかったからヤバい状態だったんですけど、なんとか追いつこうと自主練習してたら、かなのちゃんが動画に対して〈めちゃくちゃ良くなってるじゃん。がんばってね〉ってLINEで送ってくれて。大泣きしました」

戦慄「キレキレでした」

兎凪「うえーん」

戦慄「好きだよ」

――そういう姿を“A INNOCENCE”という言葉にしているのが美しいと思います。

大森「でも一緒に過ごしてて〈お前ら何がイノセンスや……〉って思うこともありますよ」

――いい感じにまとめようとしたらひっくり返された!

戦慄「プライヴェートとZOCでしっかり分けてますから」

大森「あはは(笑)。言葉のバランスとしては“断捨離彼氏”と“A INNOCENCE”で反対っぽくしていて。シングルは似てない感じの曲を入れたい。好きなパターンなんですよね」

――といったあたりで締めの時間ですね。

藍染「にっちやん、最初から最後までずっと美顔器してたね(笑)。アザになるよ」

――西井さんは言っておきたいことは?

西井「え? 幸せっすよ、いま。ZOC楽しくて、金がもらえて、自分で生活ができて。何も不自由なことないもん」

――唯一、視界がぼんやりしてるくらい。

西井「うん。なんも見えない(笑)。でも、ZOCがずっと続けばいいなと思ってます」

藍染「いつもこうやって急にときめかせてくれるんですよ。インタヴューのときしかにっちやんのそういう面が見れないんです」

西井「本当に思ってるので書いておいてください。ZOCにいられて幸せです」

ZOCの2019年のシングル“family name”(T-Palette)