無敵のロックスターはまたしてもポップ・シーンのド真ん中に君臨する! 荒ぶる意欲に任せて構築されたよりダークな世界のなかで、また新たな血塗られた英雄伝説の幕が開いて……

ワン&オンリーな存在感

 リル・ナズ・Xの登場によって俄に〈カントリー・ラップ〉なるワードを耳目にする機会も多くなってきた昨今だが、そのリル・ナズ・Xよりも一足早く現行のヒップホップ・スタイルにカントリーやフォークを融合したサウンドと特異なキャラクターでブレイクを果たしたのが、そう、ポスト・マローンだ。

 ラッパーになる以前にはロック・バンドを組んでいたという異色の経歴の持ち主であり、顔面にまでビッシリ刻まれたタトゥーに髭とロン毛、というインパクトあるルックスからは想像のつかないマイルドな歌声も織り交ぜたヴォーカル・スタイルで人気を博しているポストは、昨年4月リリースのセカンド・アルバム『Beerbongs & Bentleys』が記録ずくめのビッグ・ヒットとなったことで、ヒップホップ界のみならず現代ポップ・シーンを代表する存在となり、ロックスター/ポップスターとしての絶対的なステイタスを確立。絶好のタイミングでの来日となった同年の〈フジロック〉では新世代のスターとしてのオーラを放って圧倒的なステージングを披露しながらも、自由奔放なイマドキの若者としての側面も同時に見せて大きな話題を呼んだ(今夏には完全プライベートで北海道を訪問したことがネット上でも話題に)。

 『Beerbongs & Bentleys』リリース後も彼の勢いは止まることがなく、その数週間後には早くも次作に向けて始動していることを明らかにし、また亡くなる直前のマック・ミラーがポストとのコラボ・アルバムの構想を語ったするなど新たなるプロジェクトへの期待が高まっていくなか、10月にはマーベル映画「スパイダーマン:スパイダーバース」の主題歌としてスウェイ・リー(レイ・シュリマー)とのコラボ曲“Sunflower”を発表。スウェイとの絶妙な化学反応で最高のポップ・ナンバーに仕上がった同曲は、映画の話題も相まって全米シングル・チャート1位を獲得する大ヒットを記録し、続いてクリスマスにはファンへのギフト的な“Wow”をサプライズでリリース。

 それと前後して、昨今トレンドとなっているアーティスト主導のフェスをポストも〈Posty Fest〉と冠して地元テキサス州はダラスにて開催し、自身の他にトラヴィス・スコットやタイラー・ザ・クリエイターらが出演。またリル・ウェイン、21サヴェージ、DJキャレドらの話題作へも参加するなどヒップホップ・フィールドでの支持基盤を盤石なものとし、その一方でMTVアワードではエアロスミス、グラミー賞(ポストも4部門にノミネート)ではレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、と大御所ロック・バンドとステージでコラボレーションして持ち前のロックなスピリッツをアピールし、広くエンタメ界でワン&オンリーな存在感を見せつけた。

 

クロスオーヴァーな大作

POST MALONE Hollywood's Bleeding Republic/ユニバーサル(2019)

 当初はこの勢いのまま2018年中にもリリースか、と噂されたサード・アルバムは結局このタイミングまで温められることに。『Hollywood's Bleeding』というタイトルはかつて住んでいたLAという街を生気を吸い取るヴァンパイアに例えており、そのイメージを踏襲したジャケからも想起できるようにこれまで同様にダークなトーンがアルバム全体を包んでいる。

 ポストのヒット曲を多く手掛けてきたルイス・ベルが今回もプロデュースの中心を担当。“Sunflower”のスウェイ・リーや先行シングル“Goodbyes”でのヤング・サグ、フューチャー、トラヴィス・スコット、ミーク・ミルと現行シーンでトップクラスの面々だけでなく、いまもっともホットな若手アクトのリル・ベイビーやダ・ベイビーも招き、今作でも高いヒップホップ濃度を保っており、なかでもミーク・ミルとリル・ベイビーが参加した“On The Road”は“Rockstar”を思わせるメロディアスなポストのラインが印象的だ。それ以外にもSZAを迎えて“Sunflower”路線を踏襲した“Starting At The Sun”、その“Sunflower”とは別ベクトルな極上のポップソングに仕上げられた先行シングルの“Circles”、もともとカニエ・ウェストの作品用に共作していた壮大なスケール感の“Internet”などなど聴きどころに満ち溢れている。

 

 そして極めつけは、バンドあがりのポストにとっては念願だったであろう、メタル界のレジェンド=オジー・オズボーン(とトラヴィス・スコット)との凄まじいコラボが実現した“Take What You Want”だ。ここではゴスな雰囲気の漂うロックとヒップホップが見事に異種交配されている(〈このオジーって人、誰?〉とごく一部のポスト・ファンがザワついたのもご愛嬌だ)。

 アルバム全体を通じて、エモーショナルなポストの歌声はますます妖艶さを増し、その魅力を全面的に活かしたポップ・ミュージックとしての要素も多分に含有。時世のムードを反映してクロスオーヴァーした内容に仕上がっており、現代のダーク・ヒーロー然としたポストの佇まいも最高なのだ。 *Masso 187um

左から、ポスト・マローンの2016年作『Stoney』、同2018年作『Beerbongs & Bentleys』、2018年のサントラ『Spider-man: Into The Spider-verse』(すべてRepublic)

 

『Hollywood's Bleeding』に参加したアーティストの作品。