2018年の大ヒット・アルバム『POP VIRUS』から10か月、星野源待望の新作は4曲入りのEPとなった。情報公開からリリースまで10日、そして配信のみ、というスピード感も異例で話題を呼んでいる(今年8月に星野の全作品がストリーミング・サーヴィスで解禁されたことも布石だったように感じる)。

EP『Same Thing』がリリースされるまでの経緯をもう少し見てみると、表題曲“Same Thing (feat. Superorganism)”は10月4日にApple Musicのラジオ〈Beats 1〉でプレミア・オンエアされ、その際DJのゼイン・ロウは星野のことを世界に向け〈Japanese superstar〉と紹介した。全世界に向け、ゼイン・ロウから〈日本のスーパースター〉と呼ばれうる存在がこの国のポップ・シーンに他にいるだろうか、ということを考えてみると、それがいかにすごいことかがわかる。

さらに、10月10日にNetflixで映像作品「DOME TOUR “POP VIRUS” at TOKYO DOME」を配信するなど、星野はどんどんストリーミング市場に切り込んでいっている。テイラー・スウィフトやトラヴィス・スコットがNetflixなどでライヴ映像やドキュメンタリー作品を発表している姿も重なる。NetflixやSpotifyといったストリーミング・サーヴィスが人々の日常生活に定着してきたことで、〈暮らし〉を歌ってきた星野がそれらを重要視するようになったのも当然かも、と考えるのは深読みのしすぎだろうか。

そういった一連の流れで10月14日、体育の日に発表されたEP『Same Thing』。3組のゲストたちと作り上げた3つの曲と弾き語りの“私”、計4曲で構成されている。

まず1曲目の“Same Thing”はイギリスのバンド、スーパーオーガニズムとの共作曲だ。〈イギリスのバンド〉とは言っても、多国籍なコレクティヴである彼ら。なかでもフロントに立つOronoは、そのキャラも含めて愛されており、今年4月の「星野源のオールナイトニッポン」にも出演、星野のファンには馴染み深い存在だと思う。

“Same Thing”はスーパーオーガニズムのオロノとエミリー、そして星野の3人で即興的に、楽しみながら作られたことが、〈オールナイトニッポン〉で語られている。『POP VIRUS』のドーム・ツアー後に燃え尽き、音楽をやめることまで考えたという星野に芽生えた〈ひとと一緒に何かを作りたい〉という思い――そこからこの“Same Thing”と、よろこびあふれるEP『Same Thing』が生まれたのだと思うと、感動的な作品だと感じる。

サイケデリックな質感やドタバタとしたビート、ヴォーカルのエディット、〈合唱〉と呼びたくなる楽しげなコーラス……どこを取っても衝撃的で、思わず笑顔になってしまう。〈「楽しそう」って思うのも/「最悪だ」って落ち込むのも/どっちも同じことなんだ/それで大丈夫 それでいい〉という詞は、上記の状況にあった星野が自分自身に言い聞かせているようにも聴こえる。また、〈みんなに言いたいんだ/Fuck youって/ずっと思ってたんだよ/心から愛を込めて〉という、明るくFワードを放つサビも印象的だ(いずれも英語で歌われる)。

2曲目はラッパーのPUNPEEをフィーチャーした“さらしもの”(ちなみに、10月14日の「おげんさんといっしょ」にはPUNPEEがゲスト出演した)。ピアノのフレーズやトランペットの響きがニューオーリンズ・ジャズやゴスペルのフィーリングを呼び込んでおり、チャンス・ザ・ラッパーやサム・ヘンショウの音楽を思い出させる。セカンド・ヴァースでは星野が軽やかにラップし、スムーズに歌へと移行していく。ラップと歌とを積極的に混ぜるドレイクやアリアナ・グランデ、あるいはSIRUPのような、若いシンガーたちと同じステージで歌っているかのよう。

3曲目の“Ain't Nobody Know”は、驚くべきことにロンドンのシンガー・ソングライター/プロデューサー、トム・ミッシュとの共同プロデュース曲。Rolling Stone Japanでの対談をきっかけに親交を深め、この曲が生まれたという。柔らかい音色のギターと太いシンセ・ベース、そしてメロウネスを強調した音作り――トム・ミッシュらしさを存分に感じさせるサウンド。その音をバックに、星野はファルセットも使いながら聴き手へと親密に歌いかける。“Ain't Nobody Know”は、ソウル・シンガーとしての星野を聴くことができる一曲だ。

最後の“私”は、前述のとおり弾き語り。アコースティック・ギターと歌のみ、というパーソナルなムードは、ゲストたちとの共同作業から生まれ、複数の声が聴こえてくる3曲とは対照的。歌われるのは〈希望〉。とはいえ、〈あの人を殺すより〉〈あの人を殴るより〉といった強い言葉づかいに、心臓がひゅっと冷える。ところで、『YELLOW DANCER』(2015年)にも“口づけ”という弾き語り曲が収録されていたが、そのときより歌の深みはぐっと増している。深みを増したからこそ逆説的に、聴き手との近さを感じさせた初期の『ばかのうた』(2010年)や『エピソード』(2011年)の頃を思い出させる。

『Same Thing』からは、関わりのないミュージシャンと唐突に文脈のないコラボレーションをした、という感覚はまったく感じない。あくまでも自然な流れのなかで生まれた、肩肘張らない作品だと感じるし、心の底から楽しみながら作ったことがストレートに伝わってくる。だからなのか、個人的には星野のディスコグラフィーでもっとも親しみやすい作品だと感じた。

馴染みやすさを感じる理由は、もちろんそれだけではない。いちばんの理由は、全体的に低音が強調された音像とビート志向の編曲だ。英米のラップ・ミュージックやポップ・ミュージックばかりを聴いている耳に、『Same Thing』の音はすっと馴染む。〈よっしゃ、世界進出するぞ!〉という感覚でむやみに力んで作られたのではないこの作品は、だからこそ世界中の音楽ファンのもとへと届くだろう。