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〈ピアニスト〉ではなく〈音楽家〉として進化し続ける萩原麻未渾身のリサイタル&CD

 萩原麻未は、文化庁海外新進芸術家派遣員としてフランスに留学。パリ国立高等音楽院、同音楽院修士課程、パリ地方音楽院室内楽科にて研鑽を積んだピアニスト。広島音楽高等学校を卒業後、パリで磨きをかけてきた実力が世界で注目を集めたのは2010年のことだった。第65回ジュネーヴ国際コンクール〈ピアノ部門〉において、日本人として初めて優勝を飾ったのだ。このコンクールは第1位をあまり出さないことでも知られており、特にピアノ部門は萩原の受賞まで8年優勝者が出ておらず、その点でも彼女の第1位受賞は大きな話題となった。

 ジュネーヴ国際コンクール優勝後は、日本はもちろん、フランスにスイス、ドイツ、イタリアなどでソリスト、室内楽奏者として国際的な演奏活動を展開しているが、来年の2月に東京文化会館でソロ・リサイタルを開催することになった。同ホールでの単独のリサイタルは、意外にも彼女にとってははじめてのこと。演奏曲は意欲的なプログラムで望む。バッハの“フランス組曲第5番ト長調BWV816”で開始すると、シュトックハウゼンの“ピアノ曲”から第7、8曲、そしてシューマンの“子供の情景 Op.15”にショパンの“ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 Op.58”という、かなりバラエティに富んだプログラムとなっている。フランスの作品が1曲も入っていないのが意外だが、特にショパンの“ピアノ・ソナタ第3番”は萩原が折に触れて演奏してきた大切な曲であり、このリサイタルに対する並々ならぬ想いが窺える。今回のリサイタルを通して、彼女のさらに深まっていく音楽性とピアニズムの進化が存分に味わえることであろう。また、普段あまり演奏されないシュトックハウゼンの“ピアノ曲”は超絶技巧が凝らされ、音響の可能性が追求された難曲。萩原の精緻なピアニズム、美しい音色によってこの作品の魅力も感じて頂けるはずだ。

堤剛,萩原麻未 ラフマニノフ:チェロ・ソナタ、他 マイスター・ミュージック(2019)

 ソリストとしてのイメージが強い萩原だが、彼女は室内楽の演奏が大好きだと語っており、アンサンブルの演奏も活動の中でとても大切にしている。近年は室内楽奏者としての活動もかなり増えてきた。10月25日には日本の音楽界の重鎮であるチェリストの堤剛との共演で『ラフマニノフ:チェロ・ソナタ』をリリース予定。堤の奏でる芳醇な音色に全く引けを取らない萩原の多彩かつ美しい響きの音色は、アンサンブル能力の高さを実感して頂けることだろう。また、このディスクには現在世界的な評価が高まっている新進作曲家、酒井健治の委嘱作品(チェロ独奏・世界初録音)も収録予定。気鋭の作曲家と巨匠によるコラボレーションにも注目してほしい。

 


LIVE INFORMATION

シャイニング・シリーズ vol.6 萩原麻未 ピアノソロ・リサイタル
○2020/2/22(土)14:00開演 会場:東京文化会館 小ホール
【曲目】
バッハ:フランス組曲第5番 ト長調 BWV816
シュトックハウゼン:ピアノ曲 第7、第8
シューマン:子供の情景 op.15
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 op.58
https://www.t-bunka.jp/