〈売れてしまったら遠くに行ってしまう〉〈嬉しいけど寂しい〉——そんな気持ちを私は経験したことがなかった。だって、自分が昔から応援していたアーティストが売れることは嬉しいことだと思っていた。きっと、応援してくれている方にとってそれがいちばん幸せなことなのだと思い、歌を作って歌い続けていた。

 私は高校2年生。同い年の友達だってたくさんいる。クラスのみんなが聴いているのは、街で毎日のように耳にする流行りのあの曲。流行りのバンド。流行りのシンガーソングライター。その曲をもちろん私も聴くが私にはとっておきの曲がもっともっとたくさんある。少し昔の曲。好みの分かれるロック。これから新しい音楽シーンを彩っていくのであろうアーティスト。いつもそばに寄り添ってくれるバンド。少し誇らしかった。こんなにいい曲を知っている自分と、この曲を良いと思える自分が嬉しかった。まだ私の知らない曲はたくさんある。でも、少なくともこの曲たちには、私のあの日が強く残っている。再生ボタンを押すたびに、あの時の記憶がぐっと蘇りあの日に連れていってくれる。宝箱のようなものだ。でも、その曲を友達が聴いていた日。誰かが口ずさんでいた日。ほんの少し心のどこかで嬉しい気持ちと寂しい気持ちが戦っていることに気がついた。でも、そんな気持ちとは裏腹に、私の好きな音楽はいつまでも私の隣に寄り添っていてくれた。

チャットモンチー 告白 キューン(2009)

 今回ご紹介する曲は、チャットモンチーさんの“染まるよ”です。昔から大好きな曲でしたが、この間ふと再生ボタンを押すと涙が止まらなくなりました。メロディーの昂揚に本当に胸が締め付けられます。どうしてこんなにも、聴くたびにいろんな気持ちにさせてくれるのだろうとさらに惹かれます。

 そして、今回で約1年間やらせていただいたこの連載も最終回となります。この連載を通して、好きな曲をさらに好きになれたり、また新たな曲を発見できました。今回まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

 


原田珠々華(はらだすずか)
2002年生まれ、神奈川出身。ファースト・ミニ・アルバム『はじめての青』(TOWER RECORDS)が好評リリース中。10月にスタートした定期公演〈Wake Up!〉は、11月23日(土)、12月29日(日)とこの先の予定も発表されています。諸々の詳細は〈haradasuzuka.com〉にて!
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