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虎は準備運動とかしないじゃん

――アルバムは、下山さんのシャウトから始まるブルージーな一曲目“Always"がまず強烈なインパクトで。そこから、アコースティックとは言えヴァラエティーに富んだ曲が並び、飽きのこない作りになっています。なかでも童謡のような人懐っこさの“あなたと出会えて幸せだった猫の詩”が異質で印象深かったのですが、この曲はご自身の体験から生まれた?

「これは木下さんが書いてくれたんですけど、てっきりSABER TIGER寄りの曲で来るかと思ったら、こんな意外な曲調で。どんな歌を乗せようかしばらく悩んだ後、浮かんだのが16年一緒にいて亡くなってしまった猫のことでした。

その猫は、僕がSABER TIGERでデビューする前に道端で生まれたての状態で拾った子で。誰かにもらってもらうつもりがそのまま16年ふたり暮らしで、激動の時代をずっと見てくれていた存在だったんですよ。今回はその猫の目線で歌詞を書いてみたんです。名前はしこたまって言いまして、しこちゃんって呼んでました。

デビューした後もちょこちょこブログに上げてたのでファンの方にも可愛がってもらってたし、ペットに愛情を持ちながら生きてる方にはきっと共感してもらえるだろうなと。いい曲が出来たと思いましたね」

『WAY OF LIFE』収録曲“Always”

――“Always”では山本さんがギターを担当されています。

「恭司さんにやってもらうのは最初から決めていて、自分のほうで録った音にギターを乗せてくださいと送りつけました(笑)。そしたらもう流石としかいいようのないものを弾いてくれて」

――山本さんのギターは、どういうところが魅力ですか?

「頭に浮かんだ情景や色、熱量を全部そのままギターで再現できる人なんですよ。あらゆることができるというか、弾けないものがないんです。ミスタッチもほとんどしないし、ギタリストとしてはもうパーフェクトですね。

こと繊細さで言えば、あの方は一番だと思いますね。音で表現することって物凄く繊細なことだと思うんです。単純に足でエフェクターを踏んで音色を変えるとかいう話ではなくて、〈どれだけの色の絵の具を持っているか?〉という。とにかく素晴らしいですよ」

――ほかに、下山さんがミュージシャンとして影響を受けている方というと?

「たくさんいるのでなかなか難しいですけど、ロック・シンガーとしてはロニー・ジェイムズ・ディオですかね。初めて彼の歌を聴いたのはレインボーなんですが、表現力、声の艶、張り……すべてパーフェクトだと思いました。

シンガーにもいろんなスタイルがあるので、例えばパンクとか、自分の感情をぶつけるような歌も当然伝わるものもありますけど、やっぱり自分としてはテクニックの引き出しがあること。単純な上手さも表現力のひとつだけど、たくさんある中から〈どの引き出しを開けられるか?〉という、そういう繊細さが大事だと思っていますね。

ジャパメタ・ブームと言われていた時代の日本のシンガーの中でも丁寧に繊細に歌う人は多かったので、EARTHSHAKERのMARCYさん(西田昌史)や人見元基さん(元・VOW WOW)、ANTHEMの森川之雄さん、同じ札幌出身の山田雅樹さんとかからはとても影響を受けました」

――ちなみに、シャウトしても美しい声のクオリティーを、どうやって何十年も保つことができるのでしょう?

「これが、ないんです。喉のケアなんかも一切してません。僕はこれしかできないので――というか、歌って、その歌い手の人生や生き様に密接じゃないといけないと思ってるんですよね。あくまで僕個人の話で、プロフェッショナルとして努力してコンディションを整えている方ももちろんいっぱいいるし、本来はそれがプロとしてあたり前でもあるとも思うんですが、僕はそのまんまであるべきだと思うんですよ。

だから、のど飴も舐めなければ、ウォーミング・アップもしない……虎は準備運動とかしないじゃない(笑)。あるがままの自分で、心臓が動いて呼吸をするように歌う。声が出ないときは出なくていいじゃん、人間だから」

――その時々のリアルなものを表現する。

「僕は、それが誠意だと思ってます。そもそも、生きてることすべてがステージに上がって歌うための準備だと思ってて。食事でも、何かを見るでも、日々いろんなことを心で感じて、それがすでにウォーミング・アップになっているんだと」

――先ほども新作について、〈小ぎれいに整えるより、現在進行形の自分の生々しいところを録りたい〉とおっしゃってましたもんね。それはアコースティック作品だからということではなくて、作品作りにおいては一貫している?

「スタンスとしてはそうです。そうやって日常で準備が整っていると思ってるので、本番で一切緊張しないんですよ。いつでも、どんな状況でも、歌が歌える状態なんです」