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みんなが好きないろんな音楽をうまくミックスして、ポップスに落とし込む、それがチャンポン

――チャンポンタウンは独特の空気感がありますけど、結成するにあたって〈こういう方向性にしたい〉みたいな話はありましたか?

ken.ak「一回ものすごい企画書を書いたね」

ゴルゴス「書いたな~。エビは世界観がすごい出来上がっていたから、最初は〈チャンポンタウン〉っていう架空の国を作ろうとか、〈ライヴの前は国旗を掲げる〉とか、そこに引っ張られてましたね」

ken.ak「まだ2人の時ですね。ツアーのことも、チャンポンタウンという国で暮らしている2人が放浪の旅に出るっていうことにしたりとか、好きになってくれたお客さんも国の一員になれるってことにしたりとか、最初はそんな世界観をイメージしてましたね」

――なるほど。個人的には食べ物のチャンポンが好きなので、あのいろんな具材が入っている感じとか、どこか漂う異国の雰囲気とかも名前に合ってるなって思うんです。

ゴルゴス「〈ちゃんぽん呑み〉なんて言葉もあるし、沖縄のチャンプルーも同じ語源で、〈混ぜる〉っていう意味ですよね。それと、僕が好きなバンドのBO GUMBOSの〈ガンボ〉というのが、ニューオーリンズのガンボ・スープ(ごった煮のスープ)から名付けられていて、同じような感じを出したかったというのもあります」

――確かに共通するところはありますね。BO GUMBOSも関西でしたっけ。

ゴルゴス「彼らは京都ですね。エビも発祥はあの辺りで、京大周辺とか、京都は好き勝手やれる空気感があって、同じ関西でも茨木の人は、もしかしたらそういうのに憧れてるかもしれないです。大阪は第二の都であるはずなのに、何か吹っ切れないものがあるんですよね(笑)」

――(笑)。それで2人体制から、チャンポンタウン結成時には4人になりますよね。

ken.ak「最初はアコギとピアニカだけだったんです。で、さっきも言ったようにコンセプトもガチガチにして、ハチマキを巻いて登場することにしたのに、僕が恥ずかしくなって巻かなくて(笑)。でも、初めて観る人にも〈もっとわかりやすく伝えたい〉って思って、〈そのためにはリズムが要るぞ〉って思ったんです。そこでベースとドラムスを入れることになって、(こまる)あかねさんを入れることは迷わなかったですね」

ゴルゴス「エビでもずっと一緒にやってたし、初めて対バンした時のリハから、めちゃくちゃヤバい音が出てて衝撃的だったし」

――こまるさんは佇まいはふわっとしてるのに、出す音はしっかりしてますよね。

ken.ak「唯一無二の、他になかなかいないベーシストです。バンドでいちばん賢いし、バランサー的な役割ですね」

ゴルゴス「僕らが〈大きいことしようぜ〉って突っ走りすぎる時も、〈一回考えようや〉って言ってくれる。ちょうどいいラインで落ち着かせてくれるような人です」

――そんなあかねさんと、ドラマーの4人でバンドがスタートして、当初の世界観はどうなったんですか?

ken.ak「2人の時点で僕が恥ずかしくなったからなくなりましたけど、そのコンセプトは実際に体現しなくとも、音で出していけばいいってことに気付きました。メンバーもそれを汲み取って、空気感を作れるようになったし」

2018年作のファーストEP『tambourine』収録曲“タンバリン”のMV
 

――その空気感というのは、曲作りの段階から入れてるんですか?

ゴルゴス「僕がいろんな音楽を好きで、みんなもいろんな音楽が好きで、それをうまくミックスしたいっていう気持ちでアレンジを考えてます。それが空気感になってるのかな。でもハチャメチャな部分もあるんで、そういうところはメンバーに整えてもらって」

――そのうまくミックスするっていうのが〈チャンポン〉なわけですよね。

ゴルゴス「そうです。しかもそのミックスしたものを、どうポップスに落とし込むかっていうことですね。〈ただ混ぜました〉っていうだけのものとか、実験的なものにはしたくないですし」

ken.ak「めちゃくちゃ実験してくるんですけどね(笑)」

――いろんな要素を混ぜてはいるけど、いろんな人に届く、おいしいチャンポンじゃなきゃダメ。

ゴルゴス「そういうことです!」

 

ごった煮なのに美しい理由

――3人が好きな音楽はバラバラなんですか?

ゴルゴス「近い部分もあるんですけどね。僕は細野晴臣さんの影響が大きいです。あとはヒップホップだったり、電子音楽だったり……結局細野さんが全部やってるんですけど(笑)」

――あの方自体がチャンポンみたいな方ですからね。ちょっとオリエンタルだったりアジアンだったりな雰囲気も共通しているように思います。kenさんは?

ゴルゴス「彼は意外とTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが好きだったり、いちばんはジェフ・ベックだっけ?」

ken.ak「そうですね。王道が好きで、ディープ・パープルとか、レッド・ツェッペリンとか、あとEL&Pが好きだったから、最初ポップスはあんまり耳に入ってこなかったんです。その頃からスター・プレイヤーみたいな人が好きでした。あとはけっこうゴルゴスさんからの影響を受けていて。〈いま、こういうのを聴いてるよ〉って執拗に勧めてくるんです(笑)。遠征のクルマはそういう発表会みたいな感じだよね」

ゴルゴス「家に来たら帰る寸前まで聴かせたり」

ken.ak「最初は、音楽の化け物すぎて怖かったですよ(笑)。自分の〈音楽が好きだ〉っていう自信がなくなりました」

――こまるさんはどういう音楽に影響を受けた方なんですか?

ゴルゴス「NUMBER GIRLとかも好きなんですけど、いちばんはミーターズとか、ニューオーリンズのファンクだと思いますね」

――あのグルーヴ感はそういうところから来てるんですね。みんなそうやって好きなものが違うから、おもしろいチャンポンが出来るわけだし、どこかで感じたことのある懐かしさとか、行ったことのない異国情緒を感じたりするんですかね。それは台湾で撮られたMVのせいもあると思いますが。

2019年作のセカンドEP『ごきげんよう』収録曲“チャンポンタウンのテーマ”のMV
 

ken.ak「でもそういうのって、結局はゴルゴスさんのメロディ・センスなんだと思います。昔からギター・リフも〈歌ってる〉リフだったし、日本人らしさもあるけど、日本人離れしたところもあって」

ゴルゴス「民族音楽にハマってた時期もあるし、そういうところかな」

ken.ak「スタジオで遊びでドラムスを叩いていても、日本人っぽい2拍4拍(にアクセントを置いた)の感じじゃなく、すごくバウンスしてるんですよね」

――やはり聴いてきたものから受けた影響は大きいですか?

ゴルゴス「絶対的にそうですね。人種とか国とかが関係ないものが好きで、スライ&ザ・ファミリー・ストーンとか……バンドとしての理想はスライみたいな感じかもしれないです」

――それでいて郷愁感とか夕焼けっぽい感じとかもして。

ken.ak「昔からメロディが叙情的なんですよね。呼吸してるというか、においがあるとか、景色が見えるメロディというか。彼はそういうところに執着してメロディを出してると思います。そういうところは知らず知らずのうちにコンセプトになってるのかもしれないですね」

――ゴルゴスさん自身が考えてる以上にkenさんが分析してますね。

ゴルゴス「そうかもしれないです」

ken.ak「僕はこれまで彼が生み出した素材をたくさんもらってきて、それを整理してきたので。だから波形を見てもどういう気持ちで、どういう状態で録ったかもわかるし」

――一方でkenさんも、オルガンの音使いがメロウな感じだったり、心地良い音だったりをうまく出してますよね。それはチアキのライヴ・サポートを観ていても思うことで。

ken.ak「嬉しい~」

2018年作のファーストEP『tambourine』収録曲“ボーイ”
 

ゴルゴス「オルガンの音はけっこう特徴的ですよね。限られた機材のなかでめちゃくちゃこだわって作ってますよ、もっと新しい機材もあるのに」

ken.ak「花形プレイヤーとか、すごいセンスを持ってる人に対する憧れはあって、ありすぎて憎しみに変わる瞬間もあるくらいで、最終的にそういう人を〈食いたい〉っていう気持ちもあります。でもその〈食いたい〉気持ちを一歩手前で抑えて、寄り添う気持ちになってる。ゴルゴスさんでもそうだし、チアキちゃんでもそうだし、それが礼儀だと思っています。例えば本番でリハとは違う歌い方になった時に、とっさにEQを変えるとか、声に影響しないようにフレーズを変えたりとか、そういうことがいい音に繋がるかはわかりませんけど、常に意識していることですね」

ゴルゴス「なかなかこういう鍵盤の人いないですよね。鍵盤って、バンドを後ろから支えたりするタイプか、ものすごいテクニカル系の人かじゃないですか。そのバランスが取れてるんですよね。でもギターみたいにころころ楽器を変えるわけにはいかないから、意地でもひとつの楽器でいろんな音色を出すことに挑戦してるっていう」

ken.ak「このインタヴューが出るころには違う楽器買ってたりして(笑)」

 

〈何食べたらこうなるんや!〉

――キーボードの音色ということで言うと、今回“Giant step”を初めて聴いた時はウリチパン郡を思い浮かべました。

ゴルゴス「!! バレましたか(笑)」

ken.ak「(笑)。正直彼のデモの段階ではもう少し離れた雰囲気だったんですけど、家で録る時に〈はいはい、こうしたかったんでしょ、ウリチパン郡にしときました!〉って思って」

ゴルゴス「正直、ウリチパン郡にはめちゃくちゃ影響を受けてます。あんなに新しいのにポップな音楽はないし、もっと評価されていいって思いますね。いまの音楽史を語る時に、例えばceroは出て来るかもしれないけど、ウリチパン郡は出てこないと思うんです。でも圧倒的に革新的なことをやっていた」

ken.ak「だから僕らは前向きなオマージュとして捉えていて、相互関係で良さを知ってもらえたら嬉しいですね」

ウリチパン郡の2008年作『ジャイアント・クラブ』収録曲“ゼノン”のMV
 

――あの方たちも、関西から突然出てきた才能だったように思えます。

ゴルゴス「そうですね。さらにその下地にはBOREDOMSとかがあるんでしょうけど、たしかに東京では生まれなさそうな独特の雰囲気がありました。もしかしたら、東京の人には自然と〈商品にしたい〉っていう気持ちがあるのかもしれないですね。関西にはそういうのがない」

ken.ak「でも、商品になった音楽より、ああいう音楽を聴いた時のほうが悔しさがあるよな。〈どうやってるんや!〉とか〈何食べたらこうなるんや!〉とか」

――そうそう! それと同じことをチャンポンタウンにも思いますよ。

ゴルゴス「psybavaをやっていた頃にそういう人たちと一緒になることも多かったし、そういう人たちをカッコいいと思ってしまうんですよね。もしかしたら何万枚も売れる音楽じゃないかもしれないけれど、一本筋が通っていて揺るがないものがある」

ken.ak「関西特有の民族性もあるかもしれないです。根本的に〈景気いい音楽を作ろう〉みたいなのはある気がするね」

ゴルゴス「たしかにね。例えば、だんじりとか祇園とか、昔からのお祭りを大事にしてたり、生まれながらに備わってる土地のパワーみたいなものがある。あと、〈標準語とか無理〉みたいなプライドとか、東京まで吹っ切れないモヤッと感もあるし(笑)」

――あと、ゴルゴスさんの歌詞って意外とつらそうな描写もあって。でも歌はそこまでつらさを感じさせなくて、むしろそれを和らげるような雰囲気がありますよね。

ゴルゴス「つらい時期はありましたね。でも誰にでもつらいことはあるし、〈つらかった〉ってことを表現したいわけでもないし、みんなを応援したいわけでもない。ただ、こうやって〈そういうこともあるよね〉くらいのいい感じに昇華していくのが大事だと思っていて」

ken.ak「つらさを委ねてるというかね。〈これがつらいんだ〉って言い切らないんですよ」

――それが結果的にすごく美しさに繋がっていると思います。汚れた服を洗濯して干してるみたいな。

ゴルゴス「あー、なるほど」

ken.ak「そこまでは考えてないと思うんですけど、〈信じてる〉感があるんですよね。もしかしたらいつか音楽を辞めてしまった時に聴いても、これまで歌ってきたことに救われると思うんです。そこまで見越してはいないけど、そういうピュアな部分が歌詞になって美しいんだと思います」

――作詞は大変ですか?

ゴルゴス「大変だしあんまりやりたくなかったんですけど、最近は楽しくなってきました。今回の“Giant step”ではもう一段階先に行けたかなっていう感じはあって」

ken.ak「前作の『ごきげんよう』はまだ具体的でリアリティがあった。それが生臭さにも繋がっていたんですけど、“Giant step”はそこを音楽に載せてうまく昇華できた。だから一段階上の表現を得たと思います」

――本当そう思いますし、それは歌詞だけでなく曲もそうです。バンジョーみたいに新しい楽器の音も鳴っていますよね。

ゴルゴス「バンジョーとスライドギターも弾いてます。味付けとして絶対この音いいわ~って、ついつい楽器を買っちゃうんです」

ken.ak「だからレコーディングの前日にプリプロのトラック数を2トラックぐらい増やしてくるんですよ(笑)。楽曲の作り方も変わってきましたね」

ゴルゴス「いまは大阪(ゴルゴス)と東京(ken.ak)でなかなか会えないんで、電話越しで〈この音にして〉とか言ってね。よう聴き取ってくれるなって思いますよ」

〈Giant step〉=大きな一歩

――“Giant step”というタイトルに込められた意味は?

ゴルゴス「〈大きな一歩〉みたいなことなんですけど、歌詞とすごく繋がりがあるわけでもないし、響きがいいなって思って付けたところもありますね」

ken.ak「でも、目の前に壮大な景色が広がっていて、どんな一歩を踏み出していくかっていうところはあるよね。この曲が僕らにとっての〈Giant step〉になるかもしれないし、みんなにとっても〈Giant step〉になるかもしれないし。この曲が代表作になるくらいの意味を持たせたくて」

ゴルゴス「解説ありがとうございます(笑)」

――今回は配信で1曲だけのリリースですよね。

ken.ak「メンバーが抜けたのもあって、この夏、1曲集中して作ろうぜっていうことで」

ゴルゴス「ただ基本的にはデータのやり取りで作っていたので、1回しかスタジオで合わせてないんです」

――そこにもどかしさみたいなものはなかったですか?

ken.ak「もどかしさももちろんあるんですけど、チャンポンタウンのレコーディングは僕がいろいろチャレンジできる場所でもあるので、今回は離れていても出来るっていうのが証明できたし、各々の向き合う時間が増えて、バンドの芯が強くなったっていうのもありましたね」

ゴルゴス「もちろんスタジオに入って合わせたいっていうのもありますけど、新しい作り方にも挑戦できたし、今後のスピード感にも繋がっていくと思います」

――そして11月15日(金)には大阪・梅田シャングリラでの単独ライヴが決まっています。

ゴルゴス「年始に今年の目標を立てるっていう時に、シャングリラは大阪のインディー・バンドの登竜門的な存在なので、そこでワンマンに挑戦しようということになったんです。正直、結成1~2年のバンドには無茶な挑戦ではあるんですが、自分たちを奮い立たせるという意味も込めて」

ken.ak「でも他に選択肢はなかったよね。大阪でワンマンやるなら、次はシャングリラって」

ゴルゴス「ハコを押さえてからメンバーが抜けて、一度体制がガタッと崩れたんですけど(笑)、そこから立て直して、レコーディングもして。ただ僕らの悪いところとして、どうしても淡々と進めてしまうので、みんなそのヤバさに気付かないという。気付いた人にはみんな〈えっ!? シャングリラ!?〉って言われてます」

――それこそ〈Giant step〉ですよね。

ken.ak「そう、〈Giant step〉なんですよ(笑)」

ゴルゴス「各々の人生、限られた時間のなかで、ダラダラはしたくなかった。もちろんじっくり時間をかけるところはかけますけど、着実にステップを踏んでいきたいので。まあ、傍から見たら〈何段飛ばしや〉って思われるかもしれないですけど(笑)」

 


LIVE INFORMATION 
〈Giant step Release Event〉
チャンポンタウン ワンマン「Giant step!!!」

11月15日(金)大阪・梅田シャングリラ
開場/開演:19:00/19:30
前売り2,800円/当日3,300円
チケット予約:メール予約(champontown1988@gmail.com)/e+/ほか各プレイガイド

チャンポンタウン リリースパーティーTOKYO「Giant step!!!」

11月22日(金)東京・下北沢mona records
出演:チャンポンタウン、ベランダ、清水煩悩
開場/開演:19:00/19:30
前売り3,000円/当日3,800円
チケット予約:メール予約(champontown1988@gmail.com)/mona recordsオフィシャルサイトより