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音楽の現場の性差別・性暴力に斬り込む

――軽い気持ちではじめてこれだけ続いているということは、やっぱり向いていたんでしょうね。

「いつやめてもいいと思ってたんですよ、こないだまで。こないだって言ってももう10年ぐらい経ってるんですけど(笑)。〈明日やめるってなるかもな~〉ってちょっと思ってたんですけど、もう一生やるだろうなって気がします。ここ数年、〈すっげえおばあちゃんになってもいまの感じのスタイルでやり続けたいな〉ってやっと思えるようになった」

――その心境の変化はどこから?

「〈いつ死んでもいいや〉ってちょっと思ってたのが、〈わたしはこれをすごくやりたいから長生きしたい〉っていうのと、〈長生きしたい、長生きして何をやるか〉っていうのがどっち方向からも来たっていうのがあって。生活と音楽がリンクしたっていうのはありますね。いままでは別だったんですよ。生活している自分とバンドをやってる自分っていうのは別で、あんまり生活臭を出したくないというか出す必要も感じなかったし、なんなら音楽にメッセージとかも込めなかった。なんですけど、たぶんこの2、3年かな? それが全部ひっついてきた」

2006年作『ALL AGES』収録曲“ギャーギャー騒げ”
 

――それはどうしてですか?

「いちばん大きかったのは、もしかしたらライヴのときに痴漢に遭ったってことが実はそうだったのかもしれなくて。こんなに近くにいろんな問題があったことを、もちろん見てはいたけど、それまではたぶんどっかで他人事だったんですよね。それが自分のことになったときに、〈じゃあ私ができることは何だろう〉って考えて、〈あ、曲でもっと表現できるかも〉とか、少しでも発信できる立場にいるんだから自分で何かして動いていきたいな、と思って」

※2005年の10月に開催された〈ボロフェスタ〉にて。詳細はYUKARIのブログに書かれている
 

――2016年に痴漢撲滅ステッカーを作ったり、ネットでメッセージを出したりしていましたよね。

「お客さんのところに突っ込んでいったりダイブしにいくスタイルでライヴをやってたときに、わたしは痴漢をされたわけですよね。パフォーマーで、みんなの注目が集まっている人に対してもそんなことがあるっていうのがびっくりしたし、だったらそうじゃない人はどれだけ嫌な思いをしてるんだろうと。

そのときわたしライヴを止められなかったんですけど、でもやっぱり一瞬意味わかんなかったし、すぐそこで犯人を捕まえられなかったんですよ。わたしは自分でけっこう言いたいことも言えるし、なんなら自分のライヴだから止めることもできる。なのにできなかったってことは、もっとできない人がいるわけじゃないですか。もっと若い女の子とか、いろんな経験が少ない子とか、あと普通にお客さんで来ている人にこんな思いを味あわせること絶対できない、と思って。

そこから自分のなかで処理するまでまあまあ時間かかったんですけど、とりあえずはそういうことを許さないって思ってる人がたくさんいるぞって示そうと、〈痴漢許さない!〉っていうステッカーを作って、ライヴハウスとかいろいろなところに貼ってもらいました」

――90年代初頭のライオット・ガールもライヴハウスでの性暴力を告発していましたけれど、いまだにそういう蛮行をする人がいるというのが驚きですよね。そんなことしてたらみんなライヴに行かなくなってしまう。ほんと罪深いと思います。

「あと痴漢だけじゃなくて、ふと気づいたら、わたしは女性としてずっと音楽をやってきてて、やっぱりいろんな嫌なことがあるんですね。音の注文をPAさんにしても、〈女のお前に音の何がわかるんだ〉みたいな横柄な態度をとられることなんてほんと普通にあったし、打ち上げでカンパーイ! ってときにお酌して回るのは女の子だよね、っていう空気が当たり前にあるし。なんかそういうのを当たり前だと思って諦めてたんですよ。それもいけないと思った。諦めることじゃないし当たり前のことじゃないって思っていいんだ、っていうのがその時期にリンクしてきたんです」

――音楽業界はここ10年で裏方も女の人が増えて。だいぶ風通しがよくなったんじゃないかと思うんですけど、そういう男尊女卑的な風潮はまだ残ってるんですね。

「まあ、ちょっとわからなくもないんですよ。たとえば重い荷物も動かさなきゃいけないし。でもそうじゃない、テクニカルな面とかでも女の人じゃなくてやっぱり男、っていう雰囲気だったんですよね、ずっと。最近はわたしも長くやってきて、音響やってる方も知り合いが多くなってきたり、ライヴハウスの方とも直接お話したりするようになったので、そういう思いをしてなかったんだけど、たまに〈まだあるんだ!〉と。あれを普通だと思ってたってなんなんだろうなあ」

――あれ?と思っても、その場で合理的な行動をしてしまうことってありますよね。

「そうなんですよ。やっぱそれで印象悪くもなりたくないから、すごいへこへこしてきたこともあるし、〈えー、わかんないんですけどすいませーん〉って言ってきちゃったし。ちょっとずつみんなが気づきはじめて、〈違うって言っていいんだ〉ってなってきた」

――女性にお酌させるのが当然だと思ってるのはダサいという空気を作っていきたいですね。お酌でも取り分けでも別に手があいてる人がやればいいんじゃない?と言われたら、まあそうだなと……。それでついこまごま働いてしまったり。

「もちろん嫌な気持ちをするのは誰でも一緒だと思うんですけど、わたしはわりとタフなんで、自分のなかで処理もできるし反論もできるから、そうできない、しにくい人とかを少しでも守ってあげられたらなって思うところもあったりして。そういう思いとかもやっと歌詞にできるようになった。いままでは本当に思想とか生活とかは音楽とは完全に切り離して考えてて、歌ってることもなるべく現実的じゃないことを歌いたいと思ってたんですよ。意味ないことのほうが意味があると思ってて。それが変わったんですよね、そのへんから」