松田弘一/内里美香/村吉茜/徳原清文

失われゆく海を想い歌う、唄者たちの心のうた

 沖縄の海がまたもや危機に瀕している。いや〈またもや〉ではない。熾烈な沖縄戦から米国統治を経て現在まで沖縄の苦難は続いている。ただその度合いに濃淡があるとしたら、新基地建設のため辺野古の海で暴挙が続く現在は、非常に〈濃い〉時期だといえるが。

松田弘一,徳原清文,内里美香,村吉茜 失われた海への挽歌 2019 RESPECT RECORD(2019)

 そんな中でリリースされた『失われた海への挽歌2019』。現在の沖縄民謡に関して一番詳しく語れる小浜司がプロデュースした作品だが、実は本作には原点がある。ルポライターとして名を馳せた竹中労が1975年に制作した『失われた海への挽歌』だ。沖縄の本土復帰(72年)から海洋博(75年)にかけての開発で変貌する沖縄の海への嘆きと怒りを、〈風狂の歌人〉嘉手苅林昌を中心に登川誠仁、知名定繁など最高の唄者を集めて表現したアルバムだ。両者の関係を小浜はこう語る。「リスペクトレコードさんから〈失われた……〉に込めたメッセージを今一度伝えるために、新たな録音ができないかという話があったのがきっかけ。でも竹中さんの仕事をなぞるのではなく、現代の新しい視点から作ろうと思いました。あの頃からさらに状況は変わっていますから」

 そしてふさわしいメンバーを検討した結果、民謡界の大ベテラン、松田弘一と徳原清文。そして若手女性唄者から実力に定評がある内里美香と期待の若手である村吉茜が選ばれた。「僕の中での一押しは松田さんと徳原さんでした。サポートする女性陣には若くて力があって、まだ海が残っている離島の人ということで内里に村吉となったわけです」

 なかでも村吉はメンバーの中で一番の年下になる。まさに抜擢だが、選ばれた側のプレッシャーを村吉はこう語ってくれた。「選ばれたのは嬉しかったですが、テーマが私には重たいところがあったので、できるかどうか不安でした。もちろん75年のアルバムも知りませんでした。生まれる前ですから(笑)」

 こうして現在最高の唄者を揃えて録音した30曲は1曲目こそ小浜が今は亡き竹中を想い、海を汚す者への告発の歌詞を書いている。他の曲は海に因んだ民謡が集められている。「松田さん徳原さんと三人で2回くらいの打ち合わせで決めました。二人とも事前にイメージを膨らませていたと思いますが、自分の中にある歌の表現としての海を出したかったんじゃ無いかと思いますね」

 ライナーノートには海中写真家の中村征夫による海の喪失と再生の物語と、辺野古を記録し続ける写真家の平井茂によるまだ続く海への愚行の告発がおさめられた。このアルバムが本物の挽歌にならぬよう、うたを耳にしつつ祈るほかはあるまい。