〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉西山瞳さんによる当連載の記事が、昨年のMikiki年間アクセス・ランキングでなんと首位を獲得いたしました! 首位のみならずトップ50内にいくつもランクインしており、兎に角みなさま、昨年もご愛読ありがとうございました! 本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。

新年一発目の今回は、年末年始定番のまとめ企画で。西山さんが2019年に〈出会った〉と感じたメタル盤の発表DEATH! *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


新年明けました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

年末年始は、12月29日に体調を崩し、大晦日に救急病院に行って検査をしたら、インフルエンザA型。ずっと実家で寝込んでいたので、年を越した気がしません。

そして、高熱による頭痛が強烈で、4日間ほど、まさにこんな状態でした。

パンテラ『悩殺(原題:Far Beyond Driven)』(94年)
 

久々にGo To Hellしましたが、年明けに2本レコーディングがあり、レコーディングでHellに行かなくていいように、先にかかっておいたのであろうとポジティヴ解釈しています。

 

ポジティヴ解釈といえば、前回の連載で取り上げた、メタル的ポジティヴ解釈に溢れた北欧メタル映画「ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!」は公開から満席続きのようで、大流行りです(局地的に)。

私は試写で10月に観ていたのですが、〈辺境で頑張っているバンドを応援したい気持ち〉と〈応援するバンドのTシャツが欲しい気持ち〉を抑えきれず、12月27日の公開日にシネマート心斎橋に観に行ってきました。

平日の昼の回でしたが、革ジャン、ブーツ、ロン毛の、どこからどう見てもメタルなお兄さんが何人もいて、劇場でも終始笑いが絶えず、良いライヴに来たようなあたたかい空間でした。私も無事、Tシャツをゲットしました。

最近、ライヴに行っても黒Tシャツの購入は控えているのですが、このバンドは応援せざるを得ない。一番デザインのイケてるこのシャツを選びました。

 

さて、2020年も幕開けということで、今回は2019年に聴いたもので、個人的に新しい出会いになったアルバムをピックアップします。

一応本職はジャズ・ピアニストなので、メタルよりもジャズのほうが聴くタイトルは多く、メタルはサブスクリプション・サービスでとりあえずチェックして、気に入れば何度もリピートしたり盤を買う、という感じで鑑賞しています。

敬愛するジャズ・ピアニストのケニー・ワーナーの著書、「エフォートレス・マスタリー」の日本翻訳版が2019年11月に発売になり読んでいたのですが、本の中では〈音楽を聴く〉ということについても書かれていて。書かれているのはジャズの話なんですけれど、メタルを聴く時は全く違う意識が働いているなあと思いました。

KENNY WERNER,藤村奈緒美 エフォートレス・マスタリー ~あなたの内なる音楽を解放する~ ヤマハミュージックメディア(2019 )

メタルに関しては「分析しないといけない」とか「何かに繋げて聞かないといけない」というプレッシャー、アーティストとしてこうありたいというエゴが全くないので、純粋に楽しめている自分がいます。もちろん、そこから鑑賞を深めていくこともできるのですが、もう少しプリミティヴな初期的な衝動を聴きたい意識があるみたいで、まずは感覚で聴くという感じです。

ジャズで変に知恵がついてしまった自分の脳みそに、オラーー!と叩き込んでくれるものがいい。刺激と暴力性はもちろんですが、その上位にそれらをコントロールする知性とか、それを導く圧倒的な情念とか、そういうものが感じられる音楽が好きです。

 

 

バロネス(Baroness)『Gold & Grey

BARONESS Gold & Grey Abraxan Hymns(2019)

メタルの先達に「西山さんこれ絶対好きだと思うから聴いて」と言われて聴いたのですが、これが昨年一番の新しい音楽との出会いでした。

ヘヴィだけど美しいサウンド、先の読めない展開、でもどこか客観的な冷徹さを感じる、額縁の中の見知らぬ世界の絵のような、孤高のサウンドでした。プログレッシヴ・ロックにも通じる世界観、美学の貫徹。アートとしての一貫性。退廃的な部分は、なんとなく昔のレディオヘッドを聴いている時の感覚に近かった。でもこのテンションは、総合するとメタル分類なのかなあと。不思議なバンドだなあと思いつつ、噛めば噛むほど味が出るので、また聴きたくなる中毒性があります。本当に丁寧なプロダクションで作られているアルバムだと思います。

3月29日(日)に開催される〈DOWNLOAD JAPAN 2020〉で来日するそうですね。

 

 

ヴェノム・プリズン(Venom Prison)『Samsara』

VENOM PRISON Samsara Prosthetic Records(2019)

たまたま聴いたら、ハマっちゃいました。

まだ2枚しかアルバムを出していないイギリスのバンドだそうで、1枚目『Animus』(2016年)も聴いてみたのですが、2枚目のほうが俄然良かったです。全てにおいてクォリティー・アップしていますが、特にヴォーカル。本当に1枚目と同じ人なんですか?というほど、全然印象が変わりますね。バンドの勢いを強烈に感じます。アイデアが非常にカラフルで、デスメタル、グラインドコア、スラッシュ、いろんなものが混じっていますが、そのコラージュ具合、解放のタイミング、センスがとても良く切り替えのテンポ感だったり、シームレスさだったりが、非常に好みです。何気に複雑でおもしろいハーモニー進行をしていたり、暴力性満点な音楽ですが、実は音楽基礎体力の高い人がやっているのでは?というふうに聴いていました。おもしろいんです。

普段デスメタル系はあまり聴かないのですが、これはとても好きでした。

 

 

ブリング・ミー・ザ・ホライズン『amo』

BRING ME THE HORIZON amo RCA/ソニー(2019)

連載第21回にも書きましたが、11月のBABYMETALの公演のゲストで初めてライヴを見て、一気にどハマりしました。予習で聴いている時点ではEDM風味のポップなヘヴィロックかなと思っていたのですが、爆音で、ヴィジュアル演出込みのライヴは強烈でした。また、ライヴ運びの試合巧者ぶりにもノックアウトされまして、3回公演を観ましたが毎回変化し、観客とライヴを作る姿勢に感銘を受けました。

収録曲の“Medicine”は、SONY XperiaのCMで流れていましたし、広く聴かれた一曲になったのでしょうね。

BABYMETAL大阪城ホール公演のほうのレポートはムック「ヘドバン vol.25」で書いていますので、そちらもぜひご覧下さい。

それでは、今年も楽しいメタル・ライフを送りましょう!

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

 


LIVE INFORMATION

1月29日(金)
神奈川・横浜 上町63(tel 045-662-7322)
西山瞳(ピアノ)、古木佳佑(ベース)
開演:20:00(2set)
チャージ:3,000円(学生2,500円 1Drink付)

2月8日(土・昼)
埼玉・蕨 Our Delight(tel 048-446-6680)
西山瞳ソロ
開演:14:00
チャージ:3100円 ※学割その他割引あり

2月11日(火祝・昼)
東京・成城学園前 Beulmans(tel 03-3484-0047)
西山瞳(ピアノ)、鈴木孝紀(クラリネット)、橋爪亮督(テナー・サックス)
開場/開演14:30/15:00
チャージ:3,500円+2Drinks order

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