フィンク的な男性シンガー・シングライターの躍進が止まらない

 ブリストルで生まれ、ニンジャ・チューン傘下のN・トーンからアブストラクトなブレイクビーツ作品を出していたフィンクが、突然フォーキーな歌モノを作りはじめたのは2000年代半ばのこと。その経歴のせいか、しばらくは異質な存在として扱われてきました。が、ボン・イヴェールがカニエ・ウェストとのコラボを経てブレイクした頃から、徐々にフィンクと似た佇まいのシンガー・ソングライターが頭角を現していくことに。

カニエ・ウエストの2010年作『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』収録曲“Lost In The World”

 その筆頭が、ソングライターとしても引く手数多なエド・シーランでしょう。最新作『X』でもオーガニックな質感を大切にしながら、盟友レッチ32の楽曲をサンプリングするなどグライム世代ならではのセンスを端々で光らせていましたっけ。また、実際にフィンクがプロデューサーとして関与するジョシュ・クムラも、オーセンティックなブルース・フォークにドレイク以降のアンビエント感覚をプラス。さらに、シネマティック・オーケストラとの絡みでお馴染みなフィラデルフィア出身のグレイ・レヴァレンドによる、エレクトロニカへの仄かなアプローチは、フィンクの2007年作『Distance And Time』(プロデュースはラムのアンディ・バーロウ!)と物凄く近い気がするのですが、どうでしょう。

グレイ・レヴァレンドの2013年作『A Hero’s Lie』収録曲“Everlasting”

 なお、この号が出る頃には〈ポスト・エド・シーラン〉と目されるルイス・ワトソンも無事にアルバム・デビューを飾っているはず。〈異質な存在〉だったフィンクが音楽シーンにしっかり居場所を作り、そしていま、すくすくとその後輩が成長しているのです。

 

▼文中に登場したアーティストの作品を一部紹介

左から、ボン・イヴェールの2011年作『Bon Iver』(Jagjaguwar)、エド・シーランの2014年作『X』(Warner UK)、ジョシュ・クムラの2013年作『Good Things Come To Those Who Don’t Wait』(RCA)、グレイ・レヴァレンドの2013年作『A Hero’s Lie』(Motion Audio)、ルイス・ワトソンのニュー・アルバム『The Morning』(Warner UK)
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