COLUMN

OMAR SOSA 『Senses』

もはやラテンジャズの司祭!

 つかみどころのない謎めいたピアニスト。オマール・ソーサにこういった印象を持つ人は、僕だけではないだろう。1965年にキューバの古都カマグエイに生まれたこの天才は、一般的にラテン・ジャズにカテゴライズされているが、“キューバ人=ラテン”という枠に当てはめるのがはばかれる存在だ。もちろん、ベースにはアフロ・キューバンの伝統であるサンテリーア文化があるのだが、クラシックや現代音楽からアラブ、ヒップホップまでを網羅する多彩な音楽性と、ビッグ・バンドを含む編成やコラボのヴァリエーションも数限りない。今年の来日公演も、イタリアのトランペット奏者パオロ・フレスとタップ・ダンサーの熊谷和徳との共演だ。だからこそ、この度発表された新作『センシズ』のようなピアノ・ソロ作品は、彼の本質を知るには恰好の素材といえるだろう。

OMAR SOSA Senses Ota/MUSIC CAMP(2014)

  とはいえ、本作の背景も一筋縄ではいかない。もともとは、米国ニューヨーク州トロイにあるメディア&パフォーミング・アーツ・センター(EMPAC)で行われたジンバブエ出身の舞踏家ノラ・チパウミレの『ミリアム』という作品のために弾いたことがきっかけ。これは、南アフリカの反アパルトヘイト活動でも知られる伝説的歌手ミリアム・マケバに捧げた演目で、奇声を発しながら奇妙な動きをする非常にアヴァンギャルドなパフォーマンス。舞台のためにひたすらインプロヴィゼーションを弾き続けたことが、『センシズ』誕生のきっかけだという。しかし、ここでのオマールはアフロ色も前衛性も一切表に出さず、ひたすらシンプルなパッセージを弾き続ける。テクニックを見せつけるわけでもなく淡々としたたたずまいは、ジャズというよりはポスト・クラシカルやアンビエントに近いし、ブラジルやアルゼンチンのメランコリックな世界にも通じるものがある。そしてそこから匂い立つ美しさと哀しみに満ちた音世界こそ、オマールの魅力の原点だと気付かされるのだ。

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