パリ・オペラ座で活躍する注目のハープ奏者がソロ・デビュー

 ハープという楽器にはフランス的な香りがあるが、それにはいくつかの理由があると思う。モーツァルトの“フルートとハープのための協奏曲”に代表されるように、ロココ時代(18世紀末)にフランスで愛されていた。そしてセバスティアン・エラールによって現在も使われているダブル・アクション・ペダル付きのハープが開発され、楽器の能力が格段に進化した。これが19世紀始めの頃。そこから様々なスタイルのハープ楽曲が生み出される事になった。

 そんな歴史を改めて教えてくれるような素敵なハープのアルバムが登場した。『オペラ・ファンタジー』である。演奏するのはフランスの若手ハープ奏者として注目を集めるエマニュエル・セイソンである。2006年からパリ国立オペラ座管弦楽団の首席ソロ奏者として活躍している。

EMMANUEL CEYSSON 『Opéra Fantaisie Naïve/キングインターナショナル(2014)

 「エラールによるハープの改良があって、ちょうどその時期にロマンティック・オペラがパリで流行していました。そしてオペラの美しいメロディをその新しいハープで演奏するために、たくさんの作品が書かれたのです。オペラを観に行けない人も、サロンでのハープの演奏でオペラを味わえる時代となったのですね」

 とセイソン。この『オペラ・ファンタジー』の中には、ベッリーニの「ノルマ」、ドニゼッティの「ルチア」、グノーの「ファウスト」、オッフェンバックの「ホフマン物語」などの美しい旋律が収録されている。またセイソン自身の編曲によるビゼーの「カルメン」も。

 「ハープに出会ったのは、子供の頃でした。家でランパルとラスキーヌによるモーツァルトの“フルートとハープのための協奏曲”を聴いたのですが、その時に完全にハープの魅力に囚われてしまったのです。両親も許してくれたのでハープを習い始め、リヨン音楽院からパリ国立高等音楽院と、勉強を続けました。特にパリでは楽器だけでなく、和声学なども真剣に学びました。それで自分でも編曲が出来るようになりました」

 USA国際ハープコンクール(2004年)、ミュンヘン国際音楽コンクール(2009年)などコンクール優勝歴はあげきれないほど。ロンドン王立アカデミーでの客員教授など、後進を教える事にも熱心だ。

 「今回のアルバムは本格的なソロ・デビュー・アルバムで、大好きなオペラの世界を表現しました。ジャケットはパリ・オペラ座の衣装倉庫で撮影したのですよ」

 今後はライオン&ヒーリー社(ハープ・メーカー)の150周年を記念した特別のハープを使用して、コンサートツアーを展開する予定もあるという。また大の日本好き、温泉好きでもあり、ひとりで秘湯巡りをしたりもするそうだ。