ヘルファイア・クラブ(HFC)をノーキャンドゥと動かしはじめた2011年あたりから、バスドライヴァーのいる場所はどうも熱気を帯びやすいように見えてくる。〈地獄の業火〉ならぬポジティヴな熱気がさまざまな才能を引き寄せるのかもしれないが、ともかくレフトフィールドのトップMCというカリスマ性によって存在感を際立たせていた2000年代の彼と比べれば、どこか開放的な雰囲気があるのは確かだろう。そんなムードはこのたび完成した彼のニュー・アルバム『Perfect Hair』にもわかりやすい形で表れている。HFC仲間のオープン・マイク・イーグルや、ブレインフィーダー組のジェレマイア・ジェイ(現在はワープに移籍)にモノ/ポリー、〈Low End Theory〉でお馴染みのグレート・デーン……と、大雑把に言えばLAシーンにおけるビート・ミュージックとヒップホップの境界線(実際にそんなものは存在しないが)を自由に行き来するドープな才能たちがひしめいていて、もしかしたら昔のバスドライヴァーを知らないリスナーのほうが自然に現在の状況をチェックしているのではないか……とも思えてくるのだ。

BUSDRIVER 『Perfect Hair』 Big Dada/BEAT(2014)

 そんなバスドライヴァーは、16歳で参加したプロジェクト・ブロウドの活動を通じ、90年代から地下世界に名を馳せてきたキャリア20年超のヴェテランである。プロジェクト・ブロウドといえば94年に立ち上がったLAのアンダーグラウンドなオープン・マイク・イヴェントであり、そこから生じたコレクティヴのことでもある。エイシーアローンやフリースタイル・フェローシップ、アブストラクト・ルードらが著名な顔ぶれで、その後のLAを違う方向から導くノーバディやオミッド、HFCの盟友ノーキャンドゥやイーグルらも名を連ねていた。そんな坩堝からバスドライヴァーが頭角を表してきたのは、2枚目のアルバム『Temporary Forever』(2002年)をリリースしてから。後にバスタ・ライムズにも例えられる豪放でデカい語り口とフレキシブルな言葉のフットワークは、マニアの評価を超えて彼の名を広めることに成功したのだ。その評判もあって翌年にはマッシュと契約。さらに翌2004年、ダディ・ケヴのプロデュースした『Cosmic Cleavage』は英ビッグ・ダダからのリリースとなり、それに続く傑作の誉れ高い『Fear Of A Black Tangent』(2005年)はエリアごとにマッシュとビッグ・ダダそれぞれから世界に届けられている。

 転機となったのは、エピタフ~アンタイにアルバム2枚を残した時期。〈Low End Theory〉定着やフライング・ロータスの台頭に伴うビート勢力図の変容を受けて彼が起用したのは、ノサッジ・シングやノーバディ、フリー・ザ・ロボッツらだった。アンタイ離脱後のミックステープ『Computer Cooties』(2010年)ではフライング・ロータスを筆頭とするドープな流れと完全にリンク。HFC立ち上げ後にはノーキャンドゥとのデュオも結成するなど、シーンに深く潜りながらもオープンなムードを打ち出し、縦横無尽なスタンスを確立することになった。これに前後してデイデラスやキング・カニバル、モデラート、モードセレクター、ラトリックスらの楽曲に客演した彼は、印象的な異物としてのキャッチーですらある存在感を改めてシーン内外に提示し直している。

 そして、およそ10年ぶりにビッグ・ダダ復帰を果たして完成されたのが、今回のニュー・アルバム『Perfect Hair』だ。目玉となるのはジェレマイア・ジェイのプロデュースした“Ego Death”で、ここでは長い旬の続くダニー・ブラウンとNYのレフト重鎮たるエイソップ・ロック(現在はライムセイヤーズに在籍)を迎え、アブストラクトな音壁に向かって濃厚にスピットする様が熱い。モノ/ポリーが奥行きのある音響ビーツを提供した“Upsweep”では歌うように朗々と語りかけ、オープン・マイク・イーグルとは歪んだファスト・クランクの“When The Tooth-Lined Horizon Blinks”にてしっくり絡み、もはや妙な分類などいらないほど、バスドライヴァーの前ではすべてのビートが均等な距離を保ってマイクとの間に浮かんでいる。西海岸アンダーグラウンドの先達にあたるデル・ザ・ファンキー・ホモサピエンを日本盤ボーナス・トラックの“How Your Sprinkler System Work”に招いているのもポイントだ。LAシーン周辺から多くの顔ぶれが良作を連投している昨今、良いタイミングで親しみやすい(!?)側面も見せたバスドライヴァーは、今後もシーンのキーマンであり続けるだろう。 

 

▼『Perfect Hair』に参加したアーティストの作品を一部紹介

左から、オープン・マイク・イーグルの2012年作『4NML HSPTL』(Fake Four)、グレート・デーンの2014年作『Beta Cat』(Alpha Pup)、ダニー・ブラウンの2013年作『Old』(Fool’s Gold)、エイソップ・ロックの2012年作『Skelethon』(Rhymesayers)、デル・ザ・ファンキー・ホモサピエンの在籍するデルトロン3030の2013年作『Event 2』(Bulk)
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▼バスドライヴァーの客演した近作を紹介

左から、キング・カニバルの2010年作『The Way Of The Ninja』(Ninja Tune)、デイデラスの2011年作『Bespoke』(Ninja Tune)、モードセレクターの2011年作『Monkeytown』(Monkeytown)、ラトリックスの2013年作『Latyramid』(The Second Album)、ショーン・リーの2014年作『Shawn Lee Presents Golden Age Against The Machine』(BBE)
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▼バスドライヴァーの近作

左から、2004年作『Cosmic Cleavage』(Big Dada)、2005年作『Fear Of A Black Tangent』(Mush)、2006年作『RoadKillOvercoat』(Epitaph)、2009年作『Jhelli Beam』(Anti-)、2012年作『Beaus $ Eros』(Fake Four)
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