Robson Fernandjes(C)2010

 

 日生劇場で11月にオスバルド・ゴリホフのオペラ『アイナダマール』が上演される。スペインの詩人=劇作家であったガルシア・ロルカがスペイン戦争で殺される、その出来事を扱った作品で、タイトルはアラビア語で「涙の泉」の意。オペラではある。だが、19世紀型でも20世紀型でもない。ロルカを扱っていることもあり、スペインのカンテ・ホンドのひびきが縦横に駆使される独自のオペラだ。公演に先だって作曲家が来日、はなしをうかがう機会を得た。その一端をここでご紹介したい。

──『アイナダマール』を手掛けられたきっかけをお聞かせいただけますか?

 「1970年代、まだ子供だった頃、アルゼンチンにはいわゆる“汚い戦争”という独裁政治があったのです。美しいものすべてを破壊するような行為でした。もともとスペインでロルカが殺されたきっかけとなったスペインの政治の混乱から、アルゼンチンでその落とし子と言えるものが起こったわけです。私の心を痛めたきっかけのひとつとしてあります。

 もうひとつ、500年ほど戻ってみると、スペインという巨大な帝国からユダヤ人やイスラム人が追放される出来事がありました。それまでのスペインは様々な国の豊かな文化が融合した帝国だったのに、そんなおこないのせいで、あの国は大きな田舎になってしまいました。

 『アイナダマール』を書くにあたって抱いていたのは、大きなザクロの真っ赤な実が血を滴らせている、その血のなかには、アラビアの、ユダヤの、ロマの血がある。そういう血が流れているイメージです。文化の融合というものは美しいものではあるけれど、それが暗い意味を持つことにもなる、という対比もイメージとしては大きくあったわけです。小品であればテーマはひとつに絞られてしまいます。しかしオペラでは様々なアイデアを融合させることができます。この作品はまさにそうして出来上がりました」

ATLANTA SYMPHONY ORCHESTRA,ROBERT SPANO ゴリホフ:歌劇「アイナダマール」(涙の泉) DG(2006)

──舞台がスペインであり、ロルカが扱われている。そこにカンテ・ホンドのイディオムが用いられていますね。

 「オペラは大きなキャンバスですし、もともとオペラは人間の深い感情を出すためのものです。フィレンツェで(オペラが)生まれたときからそうだったでしょうし、私のなかでは、オペラ的なうたはそれだけで深い感情をもたらすものですが、そこにカンテ・ホンドを入れることで、ふたつの糸がよりあわされる。そのことでより感情の起伏が深くでる。ひとつの種だけだとだんだん死にむかってしまう。様々なものとミックスすることでより新しい種が生まれるのであり、オペラ的なうたとカンテ・ホンドを混ぜ合わせることになったのです。

 タンゴもそうですよね。カンツォーネやオペラ、またはユダヤ的なクレズマーというような様々な要素が入っている。アストル・ピアソラがニューヨークでそういうものに触れなければ、いまのアルゼンチン・タンゴはなかったでしょう。

 人によっては、これ『アイナダマール』が純粋なオペラではない、と言ったりします。でもオペラ自体がいままで様々な要素が混じり合って、それが共存したことによって出来てきたものであり、純粋なオペラ、というものはないと思っています」

──『アイナダマール』にはカンテ・ホンド、《オセアナ》ではラテン・ジャズ・ヴォーカルのルシアーナ・ソウザ、さらには《マルコ受難曲》ではアフロ=キューバのヴォーカルといったように、ゴリホフ作品には独自な声が導入されています。

 「音楽は人間が感情を表現する方法であり、それを表現する方法があれば、すべての方法を使いたいと思っているのです。オペラだからオペラティックな歌い方だけである必要はありません。いまの時代はマイクロフォンがあり、音楽もジャズがロックが、ヒップホップがと様々な形態がある。何もオペラティックなクラシックの歌だけの必要はない。そう思っているのです」

【参考動画】オスバルド・ゴリコフ作曲のオペラ「アイナダマール」PV

 

──ゴリホフさん自身は“Contemporary Music”の枠内で語られがちです。でも、多分そういうことにはあまり関心がないんだろう、と思っていますが、いかがですか?

 「そのとおりです。バッハベートーヴェンモーツァルトは私にとって“音楽”、純粋に聴く音楽でした。彼らと自分の人生の関わりは特になく、ただ聴くものだった。はじめて作曲家になりたいと思ったのは、ピアソラを聴いたときでした。その音楽を聴いたとき、アグレッシヴなアルゼンチンの人々がワーッと話すような、それがそのままピアソラの音楽になっていた。ふつうの生活と音楽はこんなに密接に音楽と関われる!ということにすごく感動したのですね。

 タングルウッド音楽祭に“現代音楽”を勉強しに行って、ピアソラは単純に好きで聴いていました。ブーレーズを勉強で聴いたりね。そこにウィリアム・ボルコムが教えに来たのです。彼はアルゼンチンを“ヒナステラの国”と言わず、『ああ、ピアソラの国ね!』と言ってくれたんですよ! その瞬間、『ピアソラというのは認められている、いわゆるクラシックの音楽をやらなくてもいいんだ!』と、ある意味自分のアイデンティティを認めてもらったと解釈し、自由に音楽を作ることができるようになりました。ボルコムがいたことで開眼できたのです。

 良いか悪いかは別として、自分は自分でいい、自分のアイデンティティを確立していけば、自分の好きな音楽を作っていい、と。そしていまのように自由にやっているのです」

 

プロフィール

Osvaldo Noe Golijov(オスバルド・ゴリホフ)

作曲家。1960年生まれ。アルゼンチン、ラプラタで育つ。ラプラタの音楽院で、ピアノを学び、ヘラルド・ガンディーニに作曲を学んだ。1983年、イスラエルのエルサレエム・ラビン音楽院でマーク・コピットマンに学ぶ。その後アメリカでジョージ・クラムに作曲を学ぶ。1991年以来教壇に立っており、ボストン音楽院でも教えている。映画音楽の世界でも活躍しており、最初に手がけた映画音楽はサリー・ポッター監督の『耳に残るは君の歌声』。ほかにはフランシス・フォード・コッポラ監督の映画『コッポラの胡蝶の夢』、『テトロ 過去を殺した男』の音楽を作曲している。また、2007年のグラミー賞で、『Ainadamar: Fountain Of Tears』でベスト・オペラ・レコーディング賞、ベスト・クラシック現代音楽作曲賞の二部門を受賞。

 

EVENT INFORMATION

オペラ「アイナダマール」(涙の泉)
(全3景 原語スペイン語上演 日本語字幕付)

2007年グラミー賞『最優秀オペラ録音』及び『最優秀クラシック現代作品』受賞!
アルゼンチン人作曲家ゴリホフによるロルカを題材とした、世界で話題のオペラ、待望の日本初演!

台本:デイヴィッド・ヘンリー・ウォン
作曲:オスバルド・ゴリホフ
指揮:広上淳一
演出:粟國淳
管弦楽:読売日本交響楽団

公演日程:2014年11月15日(土) / 16日(日)
上演時間:2014年11月15日(土) / 16日(日) 各日14:00開演

チケット料金:ご観劇料(税込)
S席:9,000円 A席:7,000円 B席:5,000円 学生席:3,000円※
※10月10日~発売(日生劇場窓口及び電話予約のみの取り扱い)。28歳以下。
法令で定められた学校へ在学中の方のみ有効。要学生証提示。

詳しくは日生劇場のホームページをご覧ください
www.nissaytheatre.or.jp