作りたいものを作りきったというメジャー・デビュー作『シナスタジア』

 DE DE MOUSEや佐野元春との仕事でも知られるキーボーディスト、渡辺シュンスケがジャズにとらわれない未来のピアノ・トリオを作ろうという目的で始めたSchroeder-Headzがメジャー・デビュー作『シナスタジア』をリリース。「ピーナッツ」に登場するベートーヴェンをこよなく愛する情熱を秘めた小さなピアニスト、シュローダー君からその名を取った彼らが奏でるのは、クラシックやジャズ、エレクトロやポップスなどの要素が融合したハイブリッド・サウンド。その音楽の魅力はすでに多くのリスナーに浸透していると思われるが、本作はトリオの実像をより正確に捉えることを可能にするだろう。「とにかく今回は作りたいものを作りきった」と渡辺は言う。

 「一枚目(『NEWDAYS』)を出して、いいタイミングが重なっていろんな人に聴いてもらえることになって。自分にとって信じられるものを形にした作品だったから、そのことが大きな自信になり、今回はあの形をよりパワーアップすることができたと思っています。何よりも、わかりやすさというレヴェルにおいてはかなり振り切った作品になったと思います」

Schroeder-Headz 『シナスタジア』 ビクター(2014)

 やはりアルバムの中心にあるのは明快なメロディだ。名曲“NEWDAYS”と並んで新しい代表曲になるに違いない“Blue Bird”など最たるもので、スタンダードなものを残したいという意識がうまく働いた美曲だ。YMOや矢野顕子といった彼のルーツを浮かび上がらせる“Far Eastern Tale”も実におもしろい。

 「いま周りを見渡してみてもワクワクするようなエスノ感を持った曲ってないよなぁと。懐かしい感じもするけど、確実に新しくもあるという確信があったんです。実はこういうオリエンタルなものを出すのは、僕的に禁じ手だったんですけど、そういうのをとっぱらって素直にやってみたくもあって。アジア的なアイデンティティーを形にしたいという意識もあったし」

 この曲もまた彼が言うところの「思わず口笛で吹きたくなるような曲」のひとつだ。躍動的で瑞々しい演奏を繰り広げつつ、多様なイメージを喚起する色彩なサウンドを放つこと。そんなテーマを掲げながらコンセプチュアルな楽曲を作り出す本作。雑多な音楽を嗜好しているけれど、つまるところポップなものを好む渡辺の資質が明確に表れており、なんとなくユーモラス、それでいてどこか悲しい感覚を抱かせる曲もアルバムの世界観を広げる役割を持っている。

 「作りきれた!って実感が得られた、人生でも重要な1枚になりました。でも振り子の原理で次は全然違うものになるかも。メロディがまったくねぇ!とか(笑)」