〈合唱〉という強力な武器は保持しながら、自身の方法論を破壊することで〈劇的〉に生命力を強めた新作。奇想天外なドラマの果てに辿り着く場所は、果たして……

 摩天楼オペラがメジャーからの3作目、『AVALON』でさらなる劇的進化を遂げている。作品を重ねるごとにドラマティックでシンフォニック、なおかつ今日的な音楽像に磨きをかけてきた彼らだが、今作における飛躍は、ある種の破壊に端を発するもの。このバンド独自の世界観の源であるフロントマンの苑(ヴォーカル)は、次のように語っている。

 「前作の『喝采と激情のグロリア』では合唱を多用したアプローチをして、それが自分たちにとってひとつの武器になった。だけど今回は次の段階に進むためにも、合唱の力に頼りすぎることなく、むしろ作曲にまつわる考え方を変えてみようという話になって。例えば〈Aメロ→Bメロ→サビ〉というような当然の流れもあえて無視して、いままで自分たちが当然のようにやっていたことからまず壊していこうじゃないか、と。それによって本当に劇的で感動的な、生命力溢れるロックを創造できるはずだと考えたんです」。

摩天楼オペラ 『AVALON』 キング(2014)

 もちろんそこでの〈壊す〉という作業は、自己否定とは違う。あくまで可能性を広げるため、自由度を高めるための破壊なのだ。それを裏付けるように、メンバーたちからは次のような発言も飛び出している。

 「ギタリストとして何かを壊したという自覚はなくて。例えば僕自身のルーツとしてアイアン・メイデンの存在はとても大きくて、彼らの音楽というのはまさに〈劇的ロック〉と呼ぶべきものじゃないかと思ってるんですけど、そういったルーツの部分ももっと出していいんじゃないかと思えるきっかけになりましたね、今回は」(Anzi、ギター)。

 「今回も濃い曲がたくさん並んでいて、各々のプレイについてもかなり要素が多い。そこであえて一歩引いたスタンスを取ろうとするときに、これまで以上に大きな歩幅で下がってみたり、逆に出ていくべき場では思いっきり前に出たり。そういった振り幅を広げることも、〈劇的〉というのに繋がったと思うんです」(燿、ベース)。

 「初期衝動という言葉もテーマのひとつとしてあって。そういうものを大事にしながら、遊ぶところでは遊びまくってますね。同時に、気負いすぎないようにも心掛けました。70年代や80年代の偉大なバンドの多くは、〈ギミックがないのに壮大〉な感じがあったじゃないですか。そういうのを求めたいなと思った」(悠、ドラムス)。

 ルーツや初期衝動に嘘をつくことなく、旧来のルールもあえて無視しながら、感情表現の幅を広げることに成功した本作での彼ら。実際、濃厚な楽曲群が奇想天外なドラマを繰り広げているが、その幕開けを飾る “Journey to AVALON”は、キーボード担当の彩雨が、人気ゲーム「ロマンシング サ・ガ」シリーズのサウンド担当として知られる伊藤賢治と共作したもの。彩雨はこの曲を次のように説明している。

 「伊藤さんにはサビの部分を作っていただいて、それ以外の部分は僕が。今回のこのSEは、途中からバンド演奏になるんです。つまりライヴでは、このSEが鳴りはじめるとまず4人が登場して、ヴォーカル抜きのまま演奏を始めることになる。そういう意味では、この曲がいちばん劇的かもしれない。その場で自分たちが配置に着くまでの時間も計算して完成させたものなんです」。

 加えて今回は、同じく「ロマンシング サ・ガ」のキャラクター・デザインで知られる小林智美が初回盤のアートワークを担当。そのイメージの鮮烈さには、作品自体の印象をも左右しかねないリスクが伴っているようにも感じられるが、それを恐れずにいる事実が現在の5人の強さを象徴している。苑は、「メンバーやファンじゃない方から見た摩天楼オペラのイメージというものに興味があった」と語っており、今回は衣装などについてもそうした外部からの視点を採り入れたものになっているのだという。自分たちなりの常識を少しばかり壊してみたところで個性や独自性が消え失せはしないこと、手法を変えようとも根本までは変わらないことを自覚しているからこそ、こうして大胆になれるのだろう。『AVALON』と名付けられたこの傑作は、そうした彼らの冒険心の旺盛さ、揺るぎない強さを実証している。

 

▼摩天楼オペラのメンバーが参加した外部作品を一部紹介

左から、hideの2013年のトリビュート盤『hide TRIBUTE Ⅱ -Visual SPIRITS-』(徳間ジャパン)、DEAD ENDの2013年のトリビュート盤『DEAD END Tribute – SONG OF LUNATICS –』(motorod)、KAMIJOの2014年のミニ・アルバム『Symphony Of The Vampire』(ワーナー)
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