メジャー契約を得ていたもののレーベルの事情でドロップアウトされたシンガーが、オーガスト・リゴの後見を得てついに完成させたファースト・アルバム。R&Bがそのままメインストリームであった90年代~2000年代頃を思い出させる本作は、世が世ならチャートに食い込み広く愛されたのでは……という想いに駆られるほど、ここで聴けるのは丁寧に紡がれた上質なR&Bだ。オーガストらしい美麗ミディアムに熱を帯びた歌を乗せる“The Only”や、正統派スロウをたおやかに歌う“Savin All My Love”、ファルセットに転ばないギリギリの高音が切ない“In My Zone”などなど、トロリと濃密なメロウネスとエモーショナルな歌唱が渾然となって耳を官能的な快楽で包み込む。これぞ真っ当なR&B、と賞したい良作。