〈PiNK〉と〈BLACK〉――その延長線上に浮かぶエトセトラ

 本文にもある通り、もともと〈PiNK〉な嗜好を持ちつつも、ソロ前史では〈BLACK〉なシーンに身を置いていたLiSA。彼女の出身地・岐阜や活動拠点としていた名古屋はLiSAも交流があるというcoldrainや、〈名古屋系〉という呼称もあるV系の潮流で言うなればlynch.など、パンク~ハードコアからメタルまで、いまも昔もラウド・ロックが盛んな土地というイメージがある。そうした土壌のなかで彼女が〈BLACK〉方面へシフトしたきっかけは、これまで公言し続けているようにアヴリル・ラヴィーンとの出会いだ。

 「アヴリルはポップなものをロックにやってる感じがすごく好きで、そういうところに憧れていて。〈可愛い〉ものもこういうふうにロックな表現ができるんだなって思ったというか」。

アヴリル・ラヴィーンの2013年作『Avril Lavigne』収録曲“Rock N Roll”

 ちなみに、LiSAと同じくアヴリルへの憧れから音楽の道へ進んだ日本の女性アーティストとして思い浮かぶのは、来日公演のサポート・アクトも務めた阿部真央。パンキッシュな音をポップに響かせる楽曲にはakkinが関与しているという共通点もある。また、初作でアヴリルやピンクらのポップ・ロック路線に定評のあるブッチ・ウォーカーと組み、いきなりパンクの祭典〈ワープト・ツアー〉にも参加してしまったケイティ・ペリーは、コケティッシュなキャラクターも含めてLiSAと通じるものがあると言えそうだし、サウンドを包む強烈なポジティヴィティーにフォーカスすれば、カーリー・レイ・ジェプセンも浮上してくる。さらには〈イット・ガールが大好きで、キュートだけどカッコイイ表現を試行錯誤している〉と最新シングルのインタヴューで答えていたCyntiaも、メタリックな出自から〈PiNK〉なカラーを強めてきている存在と言えるだろう。

ケイティ・ペリーの2013年作『Prism』収録曲“Roar”

 続いて今回、LiSAの〈BLACK〉サイドを引き出した“L.Miranic”に目を向けてみると、歌世界に登場するのは小悪魔的な女性。「感情的なメロディーをどういうふうに伝えようかと思ったときに、遊び心も入れつつ、ちょっとナメてる感じの悪い女の歌を書きたいなと思いました」とLiSAは語るが、そんな主人公像に沿った歌唱表現に対するディレクションのなかで挙がった名は、意外にもジャネット・ジャクソンだという。

 「SiMの曲ってウィスパーがすごく印象的に入ってるんですけど、“L.Miranic”にも〈SOS〉って囁くところがあって、そこでMAHさんに〈ここはジャネットみたいなエロい女の感じなんだよね〉って言われて。私もアヴリルに出会う前はTLCやリアーナみたいな音楽ばっかり聴いてたので、〈その感じ、わかる!〉ってすぐに理解できたんですよね。それで、最終的にはああいう吐息に(笑)。これは絶対言っとかなきゃ!って(笑)」。

ジャネット・ジャクソンの93年作『Janet.』収録曲“That’s The Way Love Goes”

 ここで見せるLiSAの健康的なセクシーさはライヴ時のパフォーマンスでも垣間見ることができるが、そういう意味ではネクスト・リアーナと目されているリタ・オラや、日本であれば倖田來未あたりがクール&フレンドリーな雰囲気も込みで近いかも。LiSAの持つ〈PiNK〉と〈BLACK〉の延長線上には、まだまだ多様なエトセトラがありそうだ。

 「アヴリルと出会ってパンクにハマって、そこからラップやシャウトが入ってるヘヴィーものまでどんどん聴くようになって。アヴリルは私にとっての入り口なんです。だから、LiSAを入り口にしてSiMを好きになったり、逆にポップなものが好きになったり、私も聴いてくれる人の入り口になりたいなって思いますね」。 

リタ・オラの2012年作『Ora』収録曲“How We Do”

SiMの2014年のミニ・アルバム『i AGAINST i』収録曲“Fallen Idols”

 

▼関連作品

左から、coldrainの2014年のミニ・アルバム『UNTIL The END』(バップ)、lynch.の2014年作『GALLOWS』(キング)、アヴリル・ラヴィーンの2013年作『Avril Lavigne』(Epic)、カーリー・レイ・ジェプセンの2012年作『Kiss』(Interscope)、Cyntiaの2014年のシングル“勝利の花束を -gonna gonna be hot!-”(Colourful)、阿部真央のベスト盤『シングルコレクション19-24』(ポニーキャニオン)、ケイティ・ペリーの2013年作『Prism』(Capitol)、ジャネット・ジャクソンの93年作『Janet.』(Virgin)、リタ・オラの2012年作『Ora』(Roc Nation/Columbia)、倖田來未の2014年作『Bon Voyage』(rhythm zone)
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