名盤シリーズをガイドに辿る、はじめましての、あるいは改めましてのジャズ

 次に聴いてみたいジャンルは何ですか?――bounceがこの10年ほど不定期に行っている読者アンケートで設けていたそんな項目に、皆さんから寄せられた回答でもっとも多かったのは、数年の間ずっと〈ジャズ〉だったものです。資料によると、4年前にHMVジャパンが行った意識調査における同種の設問に対する回答もジャズがダントツで1位だったそうですし、意識的にいろいろな音楽を楽しみたい一般リスナーにとって、ジャズが〈いずれ聴きたい音楽〉の代表格であり続けているという事実は疑いなさそうです。

 とはいえ、さように潜在的なリスナーを多く抱えながらもそれがなかなか表に出てこなかったのは、やはりなかなか入りづらい大縄跳びのような音楽というイメージが大勢を占めていたからだと思われます……ってのは少し前までの話。ロバート・グラスパー・エクスペリメント『Black Radio』以降のスリリングな潮流によって新しいリスナーが徐々に開拓されてきたここ2年ほどの良い流れを楽しんでいる人も多いでしょう。あえてザックリ言ってしまうと、ジャズが現代的な音楽たりうるものだということの可能性がわかりやすく提示されたというわけですね。もっと言えば、過去の文脈を過剰に気にしなければならない雰囲気もあった世界をいったんフェイズで区切り、身近なドアを用意してみせたことが、音そのものの自由さ以上に自由な雰囲気を創出しているのかもしれません。

 で、そうやって断絶してみる楽しさも感じる一方、そんな現在が過去の延長線上に存在するのだとしたら、現在の意識から過去の遺産の魅力を捉え直すのも楽しいと思います。折しも世界初のジャズ録音物とされる音源の誕生から100周年を迎える2017年も睨んで、〈ジャズの100枚。〉と題した一大キャンペーンが発動しました。今回ラインナップされているのは、ブルー・ノートやヴァーヴといったレーベルの垣根を越えて選び抜かれた100タイトル。ズラリと並んだかっこいいジャケを見て、ヴィジュアルだけはよく知っている、あるいは何かのモチーフとして見覚えがあるという人も多いのではないでしょうか。大半が50~60年代に録音された作品ということで、半世紀もの歳月を生き抜いてきた理由なども各々に説明されるべきでしょうが、名盤たればこそ、もっと迂闊に聴いて何かを勝手に感じてみてもいいはず。そんな許容量の広い作品の数々を駆け足で紹介していきましょう!