オクターヴ・マインズ、そのドラマティックな幕開け宣言

 片や2000年代半ばからエレクトロ人気を支えてきたベルリン出身の敏腕クリエイター。片やエリック・サティを彷彿とさせるピアノ・ソロ作品集からファイストのプロデュースまでをこなす、カナダ出身のマルチ・アーティスト。ボーイズ・ノイズとゴンザレス──この異色コンビの蜜月がこんなにも長く続くなんて、誰が予想していただろうか?

 彼らの本格的なコラボが最初に実現したのは、ボーイズ・ノイズがプロデュースを務めたゴンザレスの2010年作『Ivory Tower』。だが、その前にボーイズ・ノイズがリミックスを手掛けたファイスト“My Moon My Man”(この曲はゴンザレスのプロデュース)がフロア・ヒットした時点で、両者の相性の良さはすでに証明されていたのかもしれない。実際、『Ivory Tower』はそれぞれの良さを上手く引き出し合った見事な内容だ。そして、その成功に手応えを感じたのか、ついには2人によるスペシャル・ユニット、オクターヴ・マインズが誕生。このたびファースト・アルバム『Octave Minds: A Collaborative Album By Boys Noize & Chilly Gonzales』をリリースするに至ったのである。

OCTAVE MINDS 『Octave Minds: A Collaborative Album By Boys Noize & Chilly Gonzales』 Boysnoize/BEAT(2014)

 あくまでゴンザレスのソロ作であった『Ivory Tower』の時と両者の立場が変わったとはいえ、それに伴う顕著なパワー・バランスの変化は感じられない。むしろ本作は、『Ivory Tower』のアイデアをさらに発展させ、完成度を高めた作品だろう。

 サウンドの軸となっているのは、ゴンザレスのクラシカルなピアノ演奏と、ボーイズ・ノイズのアグレッシヴなエレクトロニック・ビーツの融合……と書くと、やや喰い合わせが悪そうに思える。しかしながら、ゴンザレスのロマンティックでエレガントな雰囲気は失われていないし、ボーイズ・ノイズの肉体性も健在。互いの個性を激しくぶつけ合いながらも、しっかりと上手い落としどころを見つけることができているのは、2人ともプロデューサーとしての視点を兼ね備えているからだろうか。

 収録曲は粒揃いだが、なかでもハイライトと言えるのは、“Tap Dance”と“Anthem”。前者は旬のチャンス・ザ・ラッパー&ザ・ソーシャル・エクスペリメントをフィーチャーした、8分の6拍子で跳ねるリズムが楽しい洒脱なラップ曲に。そして後者は、タイトル通り壮大でアンセミックなトラックだ。〈春の訪れ〉をイメージしたというのも納得の生命力に溢れた力強いサウンドは、とてもエモーショナルで、感動的ですらある。

 相変わらず好調な活動が続いている両者だけに、今回のアルバムも抜かりない出来。これだけのものを仕上げてくるのだから、このユニットも一度きりではなく、コラボはまだまだ継続していくだろう。そんな予感を抱かせるような、活き活きとしたエネルギーに本作は満ちている。

 

▼関連作品

左から、ボーイズ・ノイズの2012年作『Out Of The Black』(Boysnoize)、2013年のミックスCD『Fabriclive 72』(Fabric)、チャンス・ザ・ラッパー&ザ・ソーシャル・エクスペリメントの客演曲を収録したスクリレックスの2014年作『Recess』(OWSLA/Big Beat/Atlantic)
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