「ブラッド・メルドーマーク・ジュリアナのユニットがユーチューブに動画を次々に上げている。」とSNSで話題になって約一年が経った。ジェイソン・リンドナーアヴィシャイ・コーエンとの活動と同時に、ビートアルバム『BEAT MUSIC』を配信でリリースし、一部で話題になっていたマーク・ジュリアナが、遂にフックアップされたこともSNSでの盛り上がりに拍車をかけた。メルドーがシンセを弾き倒し、マークがミニマルなビートを刻むトランシーな人力テクノ・インプロのような2人の演奏が衝撃的だったのは言うまでも無い。

 とは言え、今更、正式に音源が出ますと言われても、動画を散々見たこともあって、あまり高揚感が無かった、というのが僕の本音だった。しかし、アルバムを聴いて、大きな勘違いしていた自分を悔いることになる。ブラッシュアップされた音は、ライヴ動画で聴いていたラフなジャムバンドの雰囲気が後退し、時に重厚なシンセ・プログレのような印象さえ感じさせ、サイケデリックに脳内を回るサウンドは、メルドーが『ラーゴ』を作った異才だったことを思い出させる。

BRAD MEHLDAU,MARK GUILIANA Mehliana: Taming The Dragon Nonesuch(2014)

 そして、どんなにビートを強めようが、そこにファンクネスを込めないのが、メルドーの流儀だ。矛盾するようだが、演奏がどんなに熱くなろうとも、その感触はヒンヤリ冷たい。同じことは、演奏はしなやかなのに、そこには無愛想なまでにストイックな感触が残るマークのビートにも言える。ここにあるのは、アフロフューチャリズムやマシンソウルの人力版ではない。ジャズメンによるロックのように投げやりなインプロヴィゼーション・グルーヴだ。それはレディオヘッドが引用したクラウトロックが持っていたものに近いとも言えるだろう。

 この録音は、この二人が組んだ必然性を浮かび上がらせてくれる。メルドーはミニマルなグルーヴの意味を共有できるエクスペリメンタルな“白い”ドラマーの登場をずっと待っていたのだ。