(C)2013 Homegreen Films & JBA Production

 

 真摯なドキュメンタリー作品なのに、くすりと笑え、やがて心温まる、比較文化的考察の素敵な道行き!

 まず、SPレコードから流れる《ラ・クンパルシータ》、セピアの写真とともに明かされるのは、衝撃の史実。怒りを抑えつつ険しい表情で語る、アキ・カウリスマキ。曰く、「タンゴはアルゼンチンでもウルグアイでもなく、1850年代のフィンランド東部で生まれた。1880年代に西部海岸へと伝わり、船乗りがウルグアイ経由でブエノスアイレスに伝えた。アルゼンチン人は順番を忘れている」……なっ、なんですとっ!?

(C)2013 Homegreen Films & JBA Production

 

 むろん異論も当然あろう。従来の定説だと、欧州にタンゴが導入されたのは1910年代前半。1920年頃パリのダンスホールで人気沸騰。オリジナルのタンゴ曲が盛んに作られ、デンマーク人が1925年《ジェラシー》を発表。1928年ポーランド人が《オー・ドンナ・クララ》を、同国出身のユダヤ人がドイツで《奥様お手をどうぞ》をヒットさせ、フランスで《夢のタンゴ》が、イタリアで《バラのタンゴ》が大成功。これら欧州製タンゴを、日本でだけ、独自に“コンチネンタルタンゴ”と呼びならわす……というものである。

 つまり、タンゴは南米生まれであり、新大陸で広く流行したハバネラ、ウルグアイのアフロ系リズムのカンドンベ、アルゼンチン内陸で育まれたミロンガなどが融合した都市音楽、という前提が存在している。

 「フィンランドがタンゴ発祥の地」説の真偽を確かめるべく、アルゼンチンの3勇者が立ち上がる。歌手チーノ・ラボルデ、ギタリストのディエゴ・クイッコ、バンドネオン奏者パブロ・グレコだ。ラボルデ&クイッコは、2010年ラバジェン楽団来日ツアーに参加。年長のグレコは、2014年春に来日した若き双頭リーダー、エミリアーノ&ラウタロ・グレコ兄弟の実父だ。父上、どの楽団でいつ来日経験をされたのか?

(C)2013 Homegreen Films & JBA Production

 

 観光名所抜きのブエノスアイレス市内、森と湖水が延々続く白夜の映像――空気感、気質、喋り方のギャップが鮮明に描かれ、それぞれ誇りとする音楽、ダンスの特性も浮き彫りに。そして語り合い、セッションするうち、次第に互いの敬意と理解も深まり――。

 カウリスマキ映画にも登場したフィンランドタンゴ人、《サトゥマー》を歌う、1960年代ブームを牽引した重鎮レイヨ・タイパレ、アコーディオンのリンドクヴィスト。動物着ぐるみ姿で子供にタンゴを紹介し続けるヌンミネン……しばし前までジーンズでタンゴを楽しめなかった南米人には、羨ましい光景だろう。

 1980年代末、世界で再燃したブームを契機に、タンゴダンサーの国際ネットワークが構築された。その音頭をとったのが、フィンランド人だった事実を思い出す。世界遺産認定など頂戴しなくとも、いかにタンゴの土壌が温存されていたことかと、気づかされる。

 

MOVIE INFORMATION

映画『白夜のタンゴ』

監督:ヴィヴィアン・ブルーメンシェイン
撮影:ビョルン・ネクテル 
編集:オリ・ヴァイス
出演:ワルテル“チーノ”ラボルデ/ディエゴ“ディピ”クイッコ/パブロ・グレコ/アキ・カウリスマキ/M.A.ヌンミネン/レイヨ・タイパレ/カリ・リンドクヴィスト/他
配給:トレノバ(2013年 ドイツ・フィンランド・アルゼンチン 83分)

◎11/22(土)、よりユーロスペースほか全国順次公開!
http://whitenights-tango.com