COLUMN

映画「ストックホルムでワルツを」

“ワルツ・フォー・デビー”を歌うラストに涙…自由に生きる自立した女性、モニカの音楽人生

(C)StellaNova Filmproduktion AB, AB Svensk Filmindustri,
Film I Vast, Sveriges Television AB, Eyeworks Fine & Mellow ApS. All rights reserved.

 

 スウェーデン出身で、もっとも世界的に知られているポップ・グループといえば、アバABBA)。このアバの欧州における最初のヒット《恋のウォータールー》は、“ユーロビジョン・ソング・コンテスト1974”で優勝したことをきっかけに生まれた。76年、アバは《ダンシング・クイーン》で世界に大きく羽ばたき、この時初めて「スウェディッシュ・ポップ」が世界的に注目された。

 『ストックホルムでワルツを』は、スウェーデンのジャズ歌手モニカ・ゼタールンド(1937-2005)の伝記映画である。モニカがデビューしたのは、50年代後半のこと。しかもジャズ歌手なので、スウェディッシュ・ポップとは無関係のように思われるかもしれないが、モニカはこの映画に描かれているように“ユーロビジョン・ソング・コンテスト1963” に出場してポップスを歌ったことがあり、60~70年代には女優として映画に多数出演し、TVのヴァラエティ・ショーでも活躍した。個人的なことだが、今から20年近く前、当時人気絶頂だったカーディガンズのリード・シンガー、ニーナ・パーションとモニカの世界的出世作『ワルツ・フォー・デビー』(64年)について語り合ったことを思い出す。ニーナが子供の頃からモニカに憧れていたと話してくれたからだ。『ストックホルムでワルツを』は、このようなスウェーデンの国民的スターだったモニカ・ゼタールンドの半生を描いた作品である。

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 ストックホルムから300kmも離れた田舎町のハーグフォッシュ。シングルマザーのモニカは、両親が暮らす実家に幼い娘と身を寄せ、電話の交換手をしながら時折歌手としてステージに立っていた。そんなモニカに60年、思いがけないチャンスが訪れる。彼女の歌をたまたま耳にした有名なジャズ評論家のレナード・フェザーから「きみは声もルックスも良い。ニューヨークのクラブに出演する予定だった歌手の都合がつかなくなったので、替わりに歌わないか?」と誘われたのだ。モニカは普段から歌手の仕事を優先させて、娘に寂しい思いをさせていたので、父親から非難を浴びていた。しかも今回は、よりによってクリスマス。だが、歌手としての成功を夢見る彼女は、父親の反対を振り切って単身ニューヨークに飛び立つ。

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 夢にまで見たニューヨークのジャズ・クラブ。しかも共演は、トミー・フラナガン・トリオ。映画では触れられていないが、トミー・フラナガンは、モニカが憧れているエラ・フィッツジェラルドの伴奏者として名高いピアニストだ。モニカにとってこの上ないシチュエーションでのニューヨーク・デビュー。ところが、モニカは理不尽な理由によってステージから降ろされた。さらには偶然バーで出会ったエラに自分の歌を聴いてもらい助言を求めたところ、返ってきたのは辛辣な批評だった。「あなたは、この曲に込められている気持ちを本当に分かって歌っているの? 誰かを真似するのではなく、自分の気持ちを歌わなきゃ駄目。ビリー・ホリデイは心で歌ったわ」。このひと言にモニカは深く傷つく。がしかし、モニカは帰国後、エラの言葉からインスピレーションを得て、スウェーデン語でジャズを歌うことを思い立つ。

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 モニカを演じているのは、これまでにアルバムを2枚発表しているスウェーデン人ジャズ歌手のエッダ・マグナソン。それだけに、劇中では彼女が実際に歌っているし、もともと容姿もモニカに近いので、違和感はほとんど感じさせない。おまけに今回が映画初出演であるにもかかわらず、演技もなかなか堂々としたもので、美しい裸身も披露する。

 母国語でジャズを歌うこと。それは当時のスウェーデンでは、たいへん大胆な試みだった。だが、モニカはこのことをきっかけにスターへの階段を上っていく。と同時に私生活の面でも、彼女の人生は好転する。ところが、好事魔多し。ユーロビジョン・ソング・コンテストでの屈辱、映画監督ヴィルゴット・シェーマンとの同棲生活の破綻、恋人の浮気、父親との確執の深まり……モニカは次第にアルコールに溺れていく。

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 『ストックホルムでワルツを』は、モニカ・ゼタールンドを、自由に生きる自立した女性として描いている。そして父親との関係に加えて、モニカに恋心を寄せるベーシストとの関係にも、かなり比重が置かれている。脚色も多少ある。だから「女性映画」「恋愛映画」といった色彩も濃いが、モニカの歌唱シーンがふんだんに盛り込まれている。加えて、ジャズにおける人種差別の問題も描かれていて、この点に僕は好感を抱いた。

 映画のクライマックスは、モニカがニューヨークでビル・エヴァンス・トリオをバックに《ワルツ・フォー・デビー》を歌うシーン。その夜、モニカは父親と電話で会話する。そして帰国した彼女を待ち受けていたのは……。モニカの実人生は、ハッピーエンドではなかった。しかし、この映画は彼女の輝かしい笑顔のショットで幕を閉じる。

 

MOVIE INFORMATION

映画「ストックホルムでワルツを」

シングルマザーの電話交換手から世界有数のジャズシンガーに!
どんな困難が待ち受けていようとも、決して夢を諦めなかった一人の女性の奇跡の実話。
北欧中を暖かな涙で包んだ、感動のサクセス・ストーリー!

◎11/29(土)、新宿武蔵野館他 全国順次ロードショー

監督:ペーエル・フライ 脚本:ペーター・ビッロ 音楽:ペーター・ノーダール 衣装:キッキ・イライダー
出演:エッダ・マグナソン/スペリル・グドナソンシェル・ベリィクヴィスト/他
配給:ブロードメディア・スタジオ (2014年 スウェーデン 111分)PG12

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