昨年リリースされた前作『UM』が音楽ファンの間で話題となったダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートの最新作。“待望の”というには間隔が短いのだが、彼等の感性と表現が聴く者の心を大きく揺さぶるので、ついついそう言いたくなってしまう。

DANI & DEBORA GURGEL QUARTETO ルース~光 Rambling RECORDS(2014)

 ダニがいくつもの曲で披露するスキャットはヴォーカリストが言葉を越して発するのとはちょっと違う。これまでにサックスをはじめ様々な楽器をプレイしたという経歴のせいか、もっと器楽的なセンスが感じられる。ピアノのデボラもキャリアのルーツはジャズだというが、すでに彼女の中で充分に咀嚼されているので、ジャズ臭さが前面に出ることはない。時折ミニマルミュージックの顔をも覗かせる彼女のピアノは、激高することなく着実に確かな印象を聴き手の心に刻みつけていく。ドラムのチアゴとベースのシヂェルについては、レコーディングという場だと抑制されているものの、ライヴでは絶妙なインタープレイを見せるプレイヤー達だ。実は本稿執筆の直前に、来日していた彼等のライヴに触れたのだが、ドラムとベースがフロントを支えるという構図ではなく4人が対等に、そして緻密に音を組み合わせ、積み重ねているという印象だった。

 収録された作品は抑制されつつも熱を孕んだグルーヴに満ちたものばかり。いくつものイメージが同時進行する複雑なコンポジションも彼等の持ち味だろう。それにダニの言葉が明瞭なのか、聴いていると言葉がどんどん入ってくる感覚に襲われる。是非歌詞カード片手に意識して聴いてもらいたい。さらにポリス81年のヒット曲《マジック》や、エリス・レジーナに捧げた《サイ・デッサ》などのカヴァー曲も収録。ブラジル音楽に縁遠い人や、ほかの楽曲が取っつきにくい人ならこのあたりから入ってもいい。いずれにせよ彼等の音楽を【サンバ】や【ジャズ】などのカテゴリーでくくるのは愚行だ。次々と新たなる扉を開く彼等の表現に、素直に喜びを感じたいものだ。