ボサノヴァサンバなど、ブラジル音楽専門のピアニストとして昨年1月にメジャーデビュー。以来、すでに2枚のアルバムをリリース、3月5日には3rdアルバム『ピアノ・バトゥカーダ』を発売する今井亮太郎。J-ブラジリアンとも呼ばれる彼は、ブラジル好きを絵に描いたような底抜けに明るい、やんちゃな少年のようなイケメンだ。

今井亮太郎 ピアノ・バトゥカーダ オーマガトキ(2014)

「アルバムタイトルにある“バトゥカーダ”とはバチーダ、“たたく”という意味のポルトガル語で、たくさんの打楽器がカーニバルのときのように、わあーっとリズムを打ち鳴らすことをいいます。『ピアノ・バトゥカーダ』というのは僕が作った造語で、そのバトゥカーダをピアノで表現したい! ということでこのアルバム名にしました」

 ジョイス・モレーノパンデイロセウシーニョ・シルヴァが参加するなどブラジル色満載だが、オリジナル曲《赤と黒のイスピラル》や《透明な砂》を聴くと、J-ブラジリアンの“J”の部分もそこはかとなく感じられる。「ブラジル人の曲は喜びも悲しみもすべてドライなんですが、日本人である僕はどこかウェットさがある。梅雨のある国に育った影響でしょうか(笑)」

 曲作りは「彫刻を彫るイメージ」と言う。「大きな固まりからテーマやストーリーに沿って少しずつ少しずつ余計なもの削ぎ落していき、残ったものが曲になる。僕の中ではオリジナルもカバーも、すべての曲にストーリーがあるんです。《赤と黒のイスピラル》は情熱と冷静さがイスピラル(螺旋)のように葛藤して、恋に迷っている物語。23歳のときに書いた曲ですが、なんでしょう? 道ならぬ恋でもしていたんですかね(笑)。《透明な砂》は昨年亡くなった父をイメージしています。人は皆必ず、悲しいことや辛いこと、なにか傷を負って生きている。その傷に心が支配されてしまうこともある。でも、悲しみさえ、生きる力になる。そういう人間の力強さがテーマです」

 たぶん彼は日本人の心の機微を保ちつつ、ブラジル音楽のグルーヴを表現できる数少ない…いや唯一のアーティストなのだろう。「バトゥカーダ、それはブラジルの大地のエネルギーだと思うんです。地下から沸き上がってくる自然の生命力、人間の生きる力。バトゥカーダはまさにそのパワー。だから、聴くとみんな元気になって、自然に体が踊りだし、生きる力が湧いてくる。明日は必ず来る! 僕もそれを伝えていきたいんです」

 今井亮太郎はピアノという楽器を通して、ブラジルの太陽のように熱くギラギラと、私たちに生きるパワーを与え続けてくれるのだ。