スギテツ企画の新作『走れ! 夢の超特急楽団』は、東海道新幹線開業50周年の記念に制作されたトリビュート盤。鉄道ファンのアーティストをはじめ、JR東海の社員によるJR東海音楽クラブが参加している。

スギテツ 走れ!夢の超特急楽団~Super Express 50th Anniversary Album~ キング(2014)

 「僕は名古屋在住なのですが、名古屋のリニア・鉄道館で予定されている50周年記念イヴェントへの参加話が発展するカタチでこのアルバムの制作が決まり、以前から知り合いの鉄道好きの方にお声を掛けしました」

 その鉄道好きにはチェリストの溝口肇、キーボーディストの難波弘之TTRE土屋礼央)、シンガー・ソングライターのオオゼキタクらの名前が並び、多くの参加者が愛情たっぷりのオリジナル曲を書き下ろした。

 「それぞれの視点で新幹線へのリスペクトを曲にしていただきました。たとえば、難波弘之さんは、開業前の試験車両が猛スピードで走った感動を思い出しながら、『256001』という曲を書いたそうです。確かに曲を聴くと、試験車両が静かに出発して、スピードを上げていく情景が目に浮かんでくるんですよね。また、オオゼキタクさんの『20番のD』というのは新幹線の座席の彼なりのこだわりを歌っている曲です(笑)」

 取材の応じてくれたスギテツの杉浦哲郎は、バッハの《G線上のアリア》とご当地ソングをマッシュアップさせた《新幹線上のアリア》を作り上げている。

 「ご当時ソングは、《お江戸日本橋》から始まりますが、この曲が短調だったので、途中で転調せざるを得なくなったり、キーが変わっていたりと、秘かにアヴァンギャルドなことをしています。これまでは《G線上のアリア》の基本的構成を変えずに《山手線上のアリア》などを作ってきたので、そこに違いがありますね」

 ところで、新幹線の先端部分(通称オデコ)は、職人の手作りだとご存じだろうか。その技術を応用して製作された金属製のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを溝口肇やスギテツの岡田鉄平らによる弦楽四重奏が用いて、『世界の車窓から』のテーマ曲を演奏している。

 「木製に比べると、多少音の粗さがありますが、それが独特の響きになっていていいのですよ。今後イヴェントで、その生音を聴いていただけるかと思います」

 他に六角精児が《いい日旅立ち》を歌ったり、彼らのラジオ番組で募集したリスナーの想い出話を各地のアナウンサーが朗読したりと、バラエティ豊かである。

 「当初は記念盤を作れる喜びでいっぱいでしたが、完成してみると、参加者それぞれが持ち寄った、50年前には“夢の超特急”と呼ばれた、そんな新幹線の景色というものを音楽に集約できたアルバムになったと思います。そして、大勢の方に参加していただけたので、“夢の超特急楽団”と名付けることも出来ました」