フー・ファイターズ――この物語の始まりはデイヴ・グロールにとってあまりにも悲しいものだった。圧倒的な喪失感を打ち消すように、ひとり黙々と音作りに没頭する日々。しかし、やがてそこに仲間が集まり、バンドはアメリカン・ロックを代表する存在へと成長する。活動開始から丸20年、初の全米1位を記録した前作も追い風に、いま彼らは未来へと続くハイウェイを全速力で走り出した。過去は忘れたのかって? いや、だけど振り返ってばかりもいられないんだよ!

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 フー・ファイターズのニュー・アルバム『Sonic Highways』は、全米8つの都市で1曲ずつレコーディングし、同時に各地にまつわるさまざまな音楽の歴史を訪ねながら計8本のドキュメンタリー番組も撮ってしまうという、ビッグ・プロジェクトとなった。シリーズ第1話〈シカゴ編〉を観ただけでも、今作に込められた音楽――とりわけアメリカーナ・ミュージックに対する愛と情熱の量が途方もないものであることは、すぐわかるだろう。まもなくデビュー20周年を迎えるフー・ファイターズは、いったいなぜこれだけのことをやり遂げるに至ったのか、彼らの足跡を大まかに辿りながら考えてみたい。

FOO FIGHTERS 『Sonic Highways』 RCA/ソニー(2014)

 これまでバンドの歴史について語る時は常に、デイヴ・グロールがかつて在籍したニルヴァーナのことをどう扱うか、という課題に向き合わざるを得なかった。だが、個人的には、おそらくそれも今回が最後になるような気がしている――。

 

過去の話はもういいだろう

 デイヴが一人でデビュー作『Foo Fighters』(95年)を完成させた後、バンド体制で作り上げた2作目『The Colour And The Shape』(97年)が各方面から高い評価を受け、3作目『There Is Nothing Left To Lose』(99年)と4作目『One By One』(2002年)で立て続けにグラミー賞を獲得するなど、メンバーこそ流動的ながらも着実にキャリアを積み重ねてきたフー・ファイターズ。すでに10年ほど前には〈ここまで輝かしい実績を築き上げてきた彼らに、もう過去の話を持ち出す必要はないだろう〉という空気を感じたりもした。ところが逆に、結成直後にはニルヴァーナの話題を避ける傾向を見せていたデイヴが、この頃からみずから過去へ踏み込んでいく行動に出はじめたのだ。

99年作『There Is Nothing Left Lose』収録曲“Learn To Lose”

 まずはデビュー10年目となる2005年、初めて前作と同じ顔ぶれのメンバーで5作目『In Your Honor』を完成させた時のこと。同作にはニルヴァーナ在籍時に書かれたという “Friend Of A Friend”が収録されている。

 そもそもデイヴがニルヴァーナに加入したのは、所属していたバンドがツアー先で空中分解して行き場をなくした際、知人のバズ・オズボーン(メルヴィンズ)に勧められたことがきっかけだったという。単身シアトルへ流れ着いた彼は、しばらくカート・コバーンの家に居候することとなったが、その住居は凄まじい汚さ。なおかつ無口なカートは、一日中ほとんど喋らずに過ごすことも多かったそうだ。そんなナーヴァスなカートのキャラクターにデイヴがついていけたのは、決して他に選択肢がなかったからだけではないはず。互いにバンド内で特別な何かが生まれそうな予感を得ていたのみならず、表向きは対照的な2人の性格にも、根底では共通する何かがあったのだと思う。ちなみに、それぞれの母親が後年に対面した際、「カートとデイヴはまるで双子のようだった」と証言している。ともあれ、奇妙な同居生活中にデイヴはカートのアコースティック・ギターを借りて曲を作った。そのうちの1曲が“Friend Of A Friend”だ。〈友人であるバズの友人=カート〉ということだろう。偶然だと思うが、歌詞には〈彼はネヴァーマインドと言った〉なんていうフレーズまで出てくる。