マイク片手に新潟から全国へメッセージを届けてきたHilcrhymeのフロントマンが、現場での絆と遠い記憶を糧に、時代と同調して新たなフェイズへと歩を進める!

〈売れるもの〉ではなく〈良いもの〉

 Hilcrhymeの活動で知られるラッパー、TOC。昨年10月のシングル『BirthDay/Atonement』でソロとしてのリリースを開始した彼が、約1年を経て、初のソロ・アルバム『IN PHASE』を完成させた。

 「タイトルには〈同期して/同調して〉という意味を込めています。今作は時代に同期した、客演陣と同調したアルバムだと思ってます。また、かつて新潟のクラブ・アーティストにとって夢の舞台だったのが、〈PHASE〉という地元で一番のデカ箱だったんです。いまはもっと大きなハコでやってるけど、PHASEに初めて立った10年前の自分のマインドを大切に〈いま〉を作りだした、というアルバムになったと思いますね」。

TOC 『IN PHASE』 NAO PLAN/Village Again(2014)

 「形式的な〈ヒップホップ〉の枠にハメず、ただそのマナーには沿った、TOCという人間にしかできない自分だけのヒップホップを作りたかった。地方からメジャーを経験したことや、そこにいつつアンダーグラウンドに戻ったことも、僕しか経験してないことだと思うし、そこで起きたことや感じたことをありのまま表現したかった」と話す今回の作品には、アンダーグラウンドなシーンで活躍しているラッパーや、TOCと現場で繋がったアーティストの参加が印象的だ。

 「ソロ活動を始めてから繋がった、ほとんどの人が現場でリンクした人たちです。参加アーティストを並べてみると〈人がこうなら俺はこう〉的な面があるというか。僕はそういう人たちと繋がりやすいのかなと」。

 その意味では、“春夏秋冬”や“FLOWER BLOOM”など、パブリック・イメージとしてのHilcrhymeの作品とは異なった、ハードさであったり、現行のヒップホップを意識した作風が随所に現れ、TOCの新たな意志を感じさせる。

 「Hilcrhymeと差があると思いますが、自分の核の部分は変えようとしても変えられなかったし、変えたくないものでした。ただ、僕は基本的に〈万人の共感を得る〉という定義を据え置いていつも曲を作っていますが、それが〈売る〉ということと混同してしまうことがいままでの音楽活動でありました。そこを自分のなかでキッチリと整理するためにも今回は〈良いもの〉を追求し、〈売れるもの〉は考えませんでした」。

 「ラッパーとして、人間として濃い人を選びました。器の大きさや人間力の豊かさ、そういう人はみんな、上手いし、〈旨い〉」と話す今回の客演陣のなかでも、同じ新潟でNITE FULL MAKERSというユニットを組んでいたUSU aka SQUEZとの楽曲を“ReUniTed”というテーマで作ったのは興味深い。

 「同じ新潟の親友であり同士でありライヴァルです。俺たちは互いの良い部分、悪い部分をすべて知り、認め合ってる。出会ってから13年くらい経ちますが、仲違いして人間関係がグチャグチャになったり、〈雨降って地固まる〉の究極版みたいなことをやってきて、とても強固な地盤ができたと思ってます。その時代を振り返りつつ、〈いま〉を歌ってる曲です」。