〈おどろ〉な自身の個性を凝縮したベスト盤が登場!

 すごろく形式で辿った人間椅子のこの25年の足跡を見れば一目瞭然だが、いま人間椅子は間違いなく第2の黄金期を迎えつつある。その勢いは止まることなく、今年6月に発表された最新アルバム『無頼豊饒』に続き、このたび2枚組のベスト盤『現世は夢~25周年記念ベストアルバム~』がリリースされる。

人間椅子 『現世は夢~25周年記念ベストアルバム~』 徳間ジャパン(2014)

 「この年数活動してて、これだけアルバムを出しているのは誇れることかな。だからベスト盤は2枚組じゃないと入らなかったし、むしろ曲を削るのに困った。バンドを知ってもらうために代表曲と、人間椅子の特徴が良く出ている曲を選びました」(和嶋)。

 その言葉通り、本作では現在廃盤の『人間椅子』に収録された“陰獣”をはじめ、彼らのおどろな魅力が濃厚に漂うナンバーを各時代から満遍なくセレクト。通して聴くと、70年代のBHRを彷彿とさせるサウンドが驚くほど一徹に貫かれており、その強固な信念と美学は痛快極まりない。それでいてどれもいまだ鮮烈に響くのは、やはり人間椅子ならではの比類なき世界観が妖しく花開いているからに違いない。バンド名からもあきらかなように、人間椅子には江戸川乱歩をはじめとする日本の怪奇幻想文学からの影響が色濃く、とりわけ古風で晦渋な言葉が連なる歌詞には独特の雰囲気がある。

 「もともとは、キング・クリムゾンのピート・シンフィールド(歌詞を手掛けていた詩人/作詞家)とかゴングのコンセプト・アルバムとか、ああいう歌詞すげえ良いと思ったんだよね。そういうのを日本語で書きたいって。それで、例えばマウンテンが〈悪の華〉(71年作『Flowers Of Evil』)を出してたりとか、〈モルグ街の殺人〉(アイアン・メイデンの81年作『Killers』に収録の“Murders In The Rue Morgue”)もあるけど、自分の好きな文学世界を曲にはめれば、すぐ世界観が作れると思って。さすが後世に残ってるだけあって、タイトルが凄く良いんですよね。なので借りたくなる(笑)」(和嶋)。

 本作にも小説から題名を借用したナンバーは数曲収録されていて、例えば乱歩の小説と同名の“地獄風景”は原作の猟奇描写を忠実に再現した快作だが、さらに凄いのは“蜘蛛の糸”などで、芥川龍之介に着想を得ながら原作とは異なる独自のイマジネーションを展開する詞世界が圧倒的だ。さらに、日本文学への傾倒と共に人間椅子を特徴付けているのが、地元である青森(あるいは東北)へのこだわりである。

 「田舎者ならではの引け目があって、ヘビメタみたいに鋲付きの皮ジャン着て〈格好良いだろ!〉っていうのはできなかった(笑)。でもコンプレックスも逆に出していけば武器になる。皆の知らない東北の暗さとか、人とは違ったマイノリティーな感じが出せると思ったし、それがロックのやり方だと思った」(和嶋)。

 「考えに考えて曲を作るとき、どうしても心に浮かぶのは小さい頃に口ずさんでいたメロディーとかでね。それが“りんごの泪”の〈なーぜ、なーぜ〉ってフレーズになったりして」(鈴木)。

2014年作『無頼豊饒』ダイジェスト映像

 故郷の環境やそこでの体験が表現化され、津軽弁による歌詞や三味線的なフレーズとして違和感なく楽曲に溶け込んでいることは興味深い。また東北ならではの土着めいた湿り気とBHRが持つ仄暗さ、その相性の良さはBHRのバッジーの曲に独自の歌詞を乗せた“針の山”が、音と詞が馴染みすぎてもはやほとんどオリジナル曲と化していることに顕著だろう。加えて本作に収録された4つの新曲は、鈴木が「『無頼豊饒』に入れた曲より良いんじゃないかなぁ」と呟くほどの代物だ。鈴木がモーターヘッドばりのスピード・チューンに挑んだ“地獄への招待状”に、いつになく耽美な歌メロの和嶋節が印象的な“悪徳の栄え”。和嶋の風刺的な作詞と鈴木のBHR然とした作曲が見事に合致した“悲しき図書館員”に、壮大にしてSF的な意匠が新鮮な“宇宙からの色”――「凄いっすよね、嬉しい限りっすよ。研ちゃんの曲は研ちゃんらしいし、和嶋君の曲は和嶋君らしい!」とナカジマも言うが、個々の特色をいままで以上に表出させながら、どれもクォリティーがすこぶる高い。

 「新曲を入れたことで次に繋がるベスト盤が出来たかなと。今後も怪奇幻想にしっかり根を下ろしてやっていきます!」(和嶋)。

 人間椅子は一切ブレることなく、まだまだ先の高みをめざしている。

 

▼関連作品
左から、ブラック・サバスの71年作『Master Of Reality』(Vertigo)、バッジーの73年作『Never Turn Your Back On A Friend』(MCA)、和嶋が楽曲提供した、12月10にリリースされる上坂すみれのニュー・シングル“閻魔大王に訊いてごらん”(スターチャイルド)