2014年1月にスタートした小学館の隔週刊「クラシックプレミアム」全50巻が折り返し点を迎えた。第24巻が年末に相応しいベートーヴェンの第9、第25巻が西洋音楽の起源を辿る「グレゴリオ聖歌からバロックの始まりまで」、そして第26巻が元旦恒例のウィーン・フィルによる「ニューイヤー・コンサート」をテーマとしたウィンナ・ワルツ集である。

 この「クラシック プレミアム」の優れているところは、(1)選曲の良さ、(2)演奏の良さ、(3)録音の良さ、(4)マガジンの楽しさ、(5)値段の安さ、の5点が挙げられる。(1)は全50巻に230曲ものクラシックの名曲をバランス良く配したことがその理由である。第25巻に収録された西洋音楽の源流と言うべき「グレゴリオ聖歌」から、20世期に入り無調音楽が登場したり(第48巻「新ウィーン楽派の音楽」)、ジャズの影響を受けた音楽が登場したりする(第50巻「ガーシュウィンバーンスタイン」)まで、音楽史の流れをしっかりカヴァーしているし、その時々を彩った名曲もきちんと押さえている。(2)は、ユニバーサルとワーナーの保有音源使用により、DGデッカEMIテルデックエラートなどヨーロッパ系のメジャーレーベルの名盤から選りすぐったものとなり、名曲ガイド本のイチオシばかりを並べたような内容が凄い。(3)の面でも、もともと優れた録音を通常のCDより高品位の素材で作られたSHM-CDでリリースするという万全の配慮がなされている。(4)は詳細な楽曲案内に加え著名な音楽評論家や作曲家、作家による連載が、10数点の美しい写真や絵画とともに掲載され、充実した読み物となっている。(5)は、これだけの内容をもちながら第1巻が800円(税抜)、それ以降は1200円(税抜)という廉価である。

 第24巻のベートーヴェンの第9でベームカラヤンガーディナーラトルなど、数多くの名盤から選ばれたのは2000年5月録音のアバド指揮ベルリン・フィルによるDG録音である。1824年に初演されたベートーヴェンの第9には長い演奏史があり、19世紀のロマン派の時代をくぐりぬけただけに、20世紀になってもその影響を強く受けた演奏が多かった。アバドはまったく新しい目で楽譜を見直し、最新の音楽研究なども考慮しながら、この20世紀の最後の年にまったく新しい「第9」像を提示した。冒頭からオーケストラの各パートは磨き抜かれ、ハーモニーは透き通り、身軽になった響きからは躍動的なリズムが生まれた。そして音楽が水の流れのように自然に流れている。その美しさは現代の修復技術により長年の汚れや後世の加筆が取り除かれ、本来の色彩と輝きと透明感を取り戻したフレスコ画のようだ。終楽章で合唱が出る前、低弦によって「歓喜の主題」が導かれ、次第に高まってゆく部分で、オーケストラの響きが内側から膨れ上がってゆく効果が素晴らしいし、それが突然独唱バスだけになって宗教的とも言える厳粛な雰囲気となる変化も絶妙だ。4人の独唱者の力みの無い歌、合唱団の多彩かつ柔軟な表現力も、オケと絶妙なコンビネーションを見せている。ビギナーは勿論、古い録音を聴きこんだマニアにもお薦めしたい「第9」である。

 第25巻では単旋律によるグレゴリオ聖歌に始まり、12世紀になって多声音楽が生まれ、教会音楽と世俗音楽がそれぞれ発達し、17世紀初頭にバロック音楽が生まれるまでを1枚のCDで辿ることができる。古楽復興に大きな功績を残した夭折の天才マンロウの演奏が中心となっているのは演奏史的にも意義深い。

 第26巻はシュトラウス・ファミリーの名曲12曲を、カラヤンを始めとする6人の名指揮者で味わえる豪華な内容だ。話題を呼んだ小澤征爾による2002年ライヴも入っているし、1979年まで25年間ニューイヤー・コンサートを指揮したボスコフスキーの名演も入っている。元旦の衛星中継を前に、シュトラウスの楽曲にも、ニューイヤー・コンサートの歴史にも、ともに強くなれる1冊である。