イギリスにはたくさんのプロフェッショナル・オーケストラがあり、特にロンドンのオーケストラが有名だが、地方にも個性的なオーケストラがたくさんある。そう、まるでサッカーのような感じなのだが、その中でも古豪と言って良いオーケストラがロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団である。その歴史をたどれば、1840年のリヴァプール・フィルハーモニック・ソサエティの設立にまで遡るのだ。イギリスではロンドンのロイヤル・フィルハーモニック・ソサエティに次いで古いという。

 古いオーケストラだけに首席指揮者の顔ぶれも凄い。マックス・ブルッフヘンリー・ウッドマルコム・サージェントチャールズ・グローヴスとイギリス指揮界の歴史そのもの。最近ではリヴォル・ペシェックジェラード・シュワルツが歴任し、2006年からはロシア出身のワシリー・ペトレンコ(1976~)が引き継いだ。

VASILY PETRENKO ラフマニノフ:交響曲第1番 他 Warner Classics(2013)

VASILY PETRENKO ラフマニノフ:交響曲第3番、ヴォカリーズ他 Warner Classics(2012)

 そのペトレンコ時代はいままさに実りの時期と言えるだろう。ペトレンコの指揮でショスタコーヴィチの交響曲を継続的に全曲録音したほか、チャイコフスキーの《マンフレッド交響曲》なども録音している(レーベルはナクソス)。またトルプチェフスキ(ピアノ)をソリストに迎えたラフマニノフのピアノ協奏曲第2、第3番(レーベルはAvie)はフランスの権威ある雑誌ディアパゾンで、ディアパゾン・ドールを獲得するなど、とても評価が高い。そしてラフマニノフの交響曲もEMIに録音をしていたが、今回、ワーナー・ミュージック・ジャパンから第1、第3番などが2枚リリースされることになった。

 ペトレンコはロシア、サンクトペテルブルク音楽院で指揮をイリア・ムーシンなどに学んだ後、第4回プロコフィエフ指揮コンクール(2003年)などで優勝し、指揮活動を始めた。ロイヤル・リヴァプール・フィルとの関係は2006年からだが、キャリアのかなり早い時期からこのイギリスの古豪をリードすることになった訳だ。それだけに、その実力が高く評価されたと言えるだろう。

 すでにショスタコーヴィチの録音が一部の音楽ファンの間で話題となっていて、NHK交響楽団への客演などもあり、ペトレンコへの期待は相当高いものになっている。今回は彼がすでに10年近く音楽作りをともにしているロイヤル・リヴァプール・フィルと来日する。演奏曲目は、辻井伸行をソリストにラフマニノフの第3番の協奏曲、プロコフィエフの第3番の協奏曲、メインには得意のショスタコーヴィチの交響曲第10番、ストラヴィンスキーの《春の祭典》など。ロシア出身の指揮者らしい重厚なロシア・プログラムと言えるだろう。

 ロイヤル・リヴァプール・フィルは長い歴史を有するオーケストラなので、これまでに来日していたのだろうと勝手に思っていたが、実は今回が初来日。かなり前だが、イギリスで聴いた時には、全体に渋めの音を持つ弦楽器群と優れた管楽器群の組み合わせがとても心地よく、素晴らしいオーケストラだと感じた。ロンドンのオーケストラが少し没個性に感じられるほど、ロイヤル・リヴァプール・フィルの音は、歴史の厚みを感じさせるものだった。その音がようやく日本でも響くことになる。もちろん、最近の録音から推測するに、ペトレンコのもとでオーケストラは充実の一途をたどっており、イギリスの中でもトップ・クラスの実力を持っていると言って良いだろう。

 今回ワーナーからリリースされるラフマニノフの交響曲第1番、第3番を聴いてみたが、奇をてらった解釈はなく、正面からラフマニノフの音楽と向き合い、そのスケール感、叙情性などを心からの共感を持って描き出している。レーベルは違うが交響詩《死の島》などが収録されたアルバム(Avie)でも、ロイヤル・リヴァプール・フィルのちょっと渋めの音とラフマニノフの世界がよく合っている。そしてペトレンコのニュアンス豊かな指揮ぶりがさらにラフマニノフの世界を身近なものにしてくれる。オーケストラ・ファンには聴き逃せない来日公演になるだろう。

 

LIVE INFORMATION

辻井伸行 with ワシリー・ペトレンコ&ロイヤル・リヴァプール・フィル 日本ツアー

○2015/1/22(木)大宮ソニックシティ 大ホール
○2015/1/23(金)横浜みなとみらいホール
○2015/1/25(日)フェスティバルホール
○2015/1/27(火)28(水)サントリーホール
○2015/1/29(木)愛知県芸術劇場コンサートホール
○2015/1/30(金)福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
www.nobupiano1988.com/schedule/index2015.html