川谷絵音の感情の振れ方によって変化する、ライフワークとも言えそうな3人組がメジャー・デビュー! 温かいサウンドメイクが施された新作の主人公は〈自分自身〉

 「(indigo la Endは)僕の感情の振れ方によって、曲が変わっていくんですよ。生きていくうえで、ずっと付いて回るバンドというか。ゲスの極み乙女。は自分でプロデュースして、いろんなことを狙ってやってるバンドなんです」(川谷絵音、ヴォーカル/ギター:以下同)。

 別掲のゲスの極み乙女。との違いをこう説明する川谷。そしてindigo la Endのメジャー・デビュー作『あの街レコード』は、彼の言う〈感情の振れ方〉がこれまででもっとも色濃く刻み込まれた作品となった。中心にあるのは、川谷の歌。よりシンプルとなったアレンジ、アナログ録音による温かみのあるサウンドメイクによって、主役の歌声がしっかりと強調されているのだ。

 「前作(2013年作『夜に魔法をかけられて』)は自分たちにとっても最高傑作だと思えるアルバムだったんですけど、実は思ったような反応を得られなかったんですよね。もともとindigoは、クラムボンやくるりみたいなバンド──シーンに囚われない唯一の存在感を持っていて、ずっと音楽を続けていくんだろうな、というイメージがあるバンドを目標にしてたんですけど、そのためには一度バンド・シーンを通過しなくちゃいけないんだなということに気付いて。今回はもっと開けた作品を作りたかったし、そのためにはこれまで以上に自分の歌を聴かせたいな、と」。

indigo la End 『あの街レコード』 unBORDE(2014 )

 美しく叙情的なメロディー、そして、生々しい感情が込められたヴォーカリゼーションも強く心に残る。その変化について川谷は、「歌のなかに自分を入れるようになった」と表現する。

  「いままでは第三者的に見ているというか、〈その曲の主人公の目線で歌詞を書いて歌う〉という感じだったんですけど、今回はそこに自分自身を入れてるんですよね。〈自分が自分として、自分の歌を歌う〉というか。いままでは恥ずかしくてできなかったんですよ、そういうやり方は。でも、自分を出したほうが言いたいことも伝わると思ったし、僕もそういう歌を歌ってみたいと思うようになったので。それは、ゲスの極み乙女。の活動のなかで気付いたことでもあるんですけどね」。

 〈夜明けの街はいつだって/あなたを隠してる〉(“夜明けの街でサヨナラを”)、〈はなればなれになった瞬間/僕は諦めてちょっと皮肉になっただけ〉(“名もなきハッピーエンド”)など、恋愛における穏やかな悲しみが伝わってくるようなリリックも魅力的。そこにはもちろん、川谷自身のパーソナリティーも反映されている。

  「結局、ずっと喪失感を歌ってるんですよね。普段からネガティヴなことしか考えないんですよ、基本的に。生きていくなかで、いろんなものを失っていくような感覚があるし、それは自然と歌詞にも出てると思います」。

 タイトルにある〈あの街〉とは、彼の故郷・長崎のこと。「バンドを結成した当初に作った“あの街の帰り道”も収録してるし、全体的に懐かしい雰囲気もあって。原点回帰というイメージもありますね」という『あの街レコード』は、川谷のポップスメイカーとしての才能を改めて証明すると同時に、彼自身の人間性がリアルに伝わる作品として評価されることになりそうだ。

  「ぶっちゃけ、自分はどう思われてもいいんですけどね。(両バンドで)自分を変えようと思ってるわけでもないし、メンバーの雰囲気に吸い寄せられてるところもあるので。違いですか? そうですね……indigoは家族で、ゲスは会社っていう感じかもしれないです、もしかしたら(笑)」。

 

▼indigo la Endの作品

左から、indigo la Endの2012年のミニ・アルバム『さようなら、素晴らしい世界』『渚にて』、2013年作『夜に魔法をかけられて』(eninal/SPACE SHOWER)
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