〈3.11 以後の建築〉展
「犬島精錬所美術館」の模型。広島を拠点に活動する建築家三分一博志は空気の動き、場が持つ環境の力を生かす建築家で、百年前の銅の製錬所を自然エネルギーによって美術館として蘇らせた。香の煙で建物の空気の流れを視覚化している。

 

 この秋、開館10周年を迎えた金沢21世紀美術館が、建築をテーマにした二つの大規模な展覧会「ジャパン・アーキテクツ1945-2010」(以下「1945-2010」)と「3.11以後の建築」(「3.11以後」)を開催している。 

 「「1945-2010」展は、パリのポンピドゥー・センターとの共同企画で、フランス人のフレデリック・ミゲルー氏の視点から戦後日本建築の歩みを振り返る展覧会です。「3.11以後」は、同館独自の企画展で、建築史家の五十嵐太郎氏とコミュニティーデザイナーの山崎亮氏をゲストキューレーターに招き、2011年以後東日本大震災を経験した25組の日本の建築家たちの新たな取り組みを中心に紹介するものです。この2つの展覧会を通し、戦後の日本建築を通覧し、震災以降の最新の動きを追いながら、将来の日本建築のあり方を模索します」と、金沢21世紀美術館の学芸員鷲田めるろ氏(「3.11以後の建築」展の担当)は説明する。

 パリのポンピドゥー・センターパリ国立近代美術館は長きにわたり、日本の建築文化に深い関心を寄せ、模型や図面からなる多大なコレクションを築いてきた。「1945-2010」展を企画したフレデリック・ミゲルー氏(同館副館長)は、約100人の日本の建築家に会い10年がかりの調査研究を進め、同館が所蔵する作品・ 資料を核として展覧会を作った。ミゲルー氏は1945年から2010年までの65年間を第1から第6までのセクションに分け、コンセプトに対応した色のコードを用いて丹下健三氏や磯崎新氏、SANAAにいたる建築家たちを紹介、戦後の日本建築の発展の歴史を詩的に読み解いた。しかし、彼の研究の道のりは容易ではなかった。「戦後の日本建築シーンは、世界的に見ても最も活発に展開しながら、包括的な研究が存在していなかったのです」とミゲルー氏は振り返る。日本の建築文化に対するフランスの国立美術館の熱意と姿勢を見るにつけ、日本の自国の建築文化に対する関心の低さが残念に思える。

「ジャパン・アーキテクツ 1945-2010」展
黒川紀章「中銀カプセルタワービル」の模型(正面手前)他 メタボリズムの作品が並ぶ

 

 長年にわたり世界で賞賛されてきた日本現代建築の躍進ぶりは、国内ではあまり知られていない。たとえば、金沢21世紀美術館を設計した建築家ユニット「妹島和世西沢立衛/SANAA」は、同館の設計で一気に世界にその名を知られ、ランスのルーヴル美術館別館を設計するなど世界から引く手数多の存在だ。2010年には建築のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞、同年ヴェネチア建築ビエンナーレという世界最大級の建築の祭典で、妹島和世氏が女性初、アジア人初の総合ディレクターを務めるなど話題をさらった。明治時代以降、西洋建築を手本にしながら独自の建築文化を育んできた日本の建築が栄光に輝いた瞬間だった。しかし、翌年、東日本大震災が起こった。2011年は日本全体にとり大きな分岐点だったが、日本の建築家にとっても意識変容を迫られた大転換の時だった。

 「「3.11」以降、何が一番変わったかというと、おもしろい形の建築を作ればいいというのでなく、社会とのつながりをもって建築家がプロジェクトを立ち上げることが大切になってきたことです」と五十嵐氏は言う。東日本大震災で、海辺の多くの街が激しく破壊され、未曾有の原発事故は現在に至るまで立入りさえ困難なエリアを生みだした。これまでは災害の後、構造を強化したり、不燃化を促進したり、耐震の基準が高くなったりしてきたが、今回は建築界において社会とのつながりが大きく注目されるようになった、と五十嵐氏は指摘する。

 「これからの建築は、人々や社会との関係性を築くための空間を作っていくことが求められていると思います」と山崎氏は言う。

 エネルギー意識の高まりや少子高齢化社会の本格化、そして縮小均衡化する日本経済を背景に建築を取り巻く環境は厳しくなっている。「今までの建築家のサクセスストーリーはもうほとんど成立しない」と五十嵐氏。そんな中、「より社会的な存在になろう」という自覚をもち自分なりの方法で行動に移した建築家たちがいる。五十嵐氏、山崎両氏は、これらの建築家の取り組みを1)みんなの家、2)災害後に活動する、3)エネルギーを考える、4)使い手とつくる、5)地域資源を見直す、6)住まいをひらく、7)建築家の役割を広げる、といった7つの傾向に分類し、展示を構成している。従来の建築業界の常識とは異なる、目から鱗の新しい建築の提案がいくつもあり、被災地の復興や未来の街作りに役立つヒントが満載だ。

 「建築家は社会の課題を解決するためのアイデアや技術をいっぱい持っている人種だと思う。だから社会が建築家を使わないのはもったいない」(山崎氏)。

 

LIVE INFORMATION

開館10周年記念特別展:
ジャパン・アーキテクツ1945-2010
監修・キュレーター:フレデリック・ミゲルー(ポンピドゥー・センターパリ国立近代美術館副館長/ロンドン大学バートレット建築学校学長)
会期:2015/3/15(日)まで開催中

3.11以後の建築
ゲスト・キュレーター:五十嵐太郎、山崎亮
会期:2015/5/10(日)まで開催中
会場:金沢21世紀美術館

www.kanazawa21.jp