日本語と西洋の歌唱法は水と油と思っていた。心のこもった日本の歌やオペラに接するものの、日本語が聴き取れない経験が多かったからだ。最近ソプラノ歌手ダムラウのアルバム 『唱歌』で日本語が見事に聴き取れ、心底驚いた。続けて聴いた今回のアルバムでも美しい日本語を堪能できた。オペラで重量級テノール役を淡々と、しかし全身全霊を捧げて歌う福井さんは、ここでも真摯に歌う。東北出身の福井さんならではの作品構成で、中でも宮澤賢治作品が心に残った。また 《雨ニモマケズ》の朗読では方言も自然に織り込み、福井さんの人柄、音楽への美学がひしひしと伝わる素晴らしいものだった。

【参考動画】福井敬による2007年のパフォーマンス映像