NO TONIC PRESS

アルゼンチンのSSW、フリアン・モウリンの話

タワレコ本社での勤務にもぼちぼち慣れてきたようなそうでもないような。新しい生活が始まると、日々いろいろと考えることが増えますね。ほとんど意識することもなかったさまざまな物事の良いところと悪いところに改めて気付かされるのは、変化があり比較する対象ができるからこそで。それまでは当たり前だったことが当たり前ではなくなったり、逆に思いもしなかったものが当たり前のことになっていったり。そうかと思うと、今までの自分、あるいは周囲の人々との〈比較〉云々とは全く関係なく、「とにかく俺はこうしたいんだ!」みたいな気持ちがくっきりと浮かび上がってきたりして。人生何事も経験ですね(唐突に、無難なまとめ)。

 

さて、今日も日頃の愛聴盤のなかからひとつご紹介します。今回は2012年にリリースされた作品。アルゼンチンのシンガー・ソングライター、フリアン・モウリンのソロ・デビュー作『Mate De Metal』から、冒頭曲“Cancion Para Despertarla”をどうぞ。

以前勤務していた某CD屋での入荷初日に店頭で流れてるのを聴いて、その日のうちに買ったアルバムです。当時の僕は聴く音楽の範囲が(いまよりもさらに)だいぶ狭くて偏っていて、南米ものの音楽なんかにもそれほど関心を払っていなかったのですが、このアルバムにはまず〈パーカッションの音色〉でやられました。コンガなんかの皮モノも、トライアングルとかウインド・チャイムみたいな金モノ類も、カホンやギロなんかも、すごくいい音で再生されてたんですね。

音に惹かれて最初に〈意識〉したのはそんな部分だったんですけど、その後よく聴き込むと、自分が妙にグッときた理由がほかにもだんだんとわかってきて。この曲もそうですけど、アルバム全体を通しての印象は、基本、〈ギター弾き語り+αのオーガニックな音楽〉なんです。〈+α〉の部分は、もう1本のギターだったり、各種パーカッションだったり、ピアノやキーボード、シンセだったり、ゲスト参加の女性ヴォーカルによるコーラスだったり。

その〈+α〉のやり方が、本当に絶妙なんです。

あくまでもさりげなく、過剰になりそうな装飾は可能な限り削ぎ落とす。(コーラスなども含む)各楽器の音をあえてその場所に配置する意味を追及しているのだな、ということがよく伝わってきます。これはただ控えめに聴こえるようにすればというわけではないし各楽器を〈目立たせない〉ということでもなく、〈目立たせるところは目立たせる〉ことも必要なんです。せっかくその楽器を入れているのだから、〈おいしい〉ところはバッチリいただいたうえで、楽曲の質を〈狙った通りに〉高めていく。その手腕がすごいな、と。

楽曲も一聴するとシンプルなんですが、随所にちょっとひねったところや小技が効いていて。また、一曲の中のヴォーカルのほんの一部に少しだけかかっていたりするエフェクト処理の仕方が細部まできめ細やかだったりして、色々な部分から「繊細な感覚でじっくりと大切に作り上げられた作品なのだな」ということがわかります。〈シンプル〉かつ〈ポップ〉って、実は結構矛盾しているような気がするんですけど、それがごく自然に成し遂げられているところがすごい。

あ、上の2段落、同じようなことを2回書いちゃってますけど、同じようなことをちょっと表現を変えて繰り返し書くのが好きなんです。〈ブログ〉ってことでお許しください。

 

フリアン本人は作曲、ヴォーカル、ギターのほかにパーカッション類やピアノや鍵盤楽器、プログラミングなどかなり色々なことができる人のようです。もっと〈いかにもギミックたっぷりのサウンド〉みたいなコンセプトでもかなりのものを作ることができるんじゃないかと思うのですが、あえてそういうことはしないし、自身のソロ・デビュー作でこういうアルバムを作ってしまうセンスにしびれます。

これだけ書いておいてどういう人かほとんど知らないし、〈以前参加していたバンド〉とやらの作品もなんとか入手しようと何度かかけあったのですがどうも難しいようで……。新作が出るのを楽しみに待ちます。

 

……と、あんまり長く書いてると「お前、仕事のブログ1本にどれだけ時間かけるんだよ」などと言われてしまうので、今日はこのへんで。アルバムの中でもかなり好きな曲“Chinchulín”のMVを見つけたので、最後にそれを貼ります。

5拍子のAメロからサビに移行するところの〈チャーン、チャーン、チャーン、チャーン、チャンチャン〉ってところがすごく好きです(伝わるでしょうか)。実は今日初めて観たんですけど、なんか変なMVですね。

 

すっかり書き忘れてましたけど、彼の歌声自体もすごく好きで、こんなに何度もアルバムを聴きかえしているのはまずそこのところが大きいのかもしれません。歌声やギターの音色など、なにもかもが好みなアルバム。この人の感覚なら歌詞もかなり面白いんじゃないかと思ってるんですけど、僕にはスペイン語が全然わからなくて、なにを歌っているのか全くわからないのが残念なところです(他の曲での「ブエノスアイレス」という部分だけ、わかります)。

 

それではまた。

【プロフィール】
戸畑 春彦

戸畑 春彦 (とばた はるひこ)

Mikiki編集部所属。2014年3月入社。2月まで某社のジャズ専門店に勤務していました。特によく聴くのはジャズや即興音楽、近年の中南米音楽など。いわゆる〈プラチナ期〉時代からの某グループのファン(在宅)。Jリーグとガンバ大阪も好きです。ツイッターのタイムラインを毎日全部見てます。

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