(C)2014 OPEN ROAD FILMS

 

 大ヒットした『アイアンマン』で、監督としての地位を不動のものにしたジョン・ファヴローが、製作、監督、脚本を自ら行ってインディペンデントへと返り咲いた話題の作品『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』は、全編に垂涎のアメリカン・グルメと熱狂の音楽の散りばめられたカラフルでハッピーな作品だ。

 ファヴロー演じる主人公のキャスパーは、有名レストランの一流シェフとしての地位を失い、不慣れなSNSでの失策も絡んで、料理人として存亡の危機を招いてしまう。仕事人間の彼は、家庭生活をうまく存続出来ずに離婚してしまった妻のもとで育つ10歳の息子との関係も溝が深まるばかり。そこへ再就職先が見つからず、プライドも打ち砕かれて……。

 そんな折、理解と友情を示してくれる美しい元妻イネス(ソフィア・ベルガラ)の誘いで訪れたマイアミで、絶品のキューバ・サンドイッチに出会い、もう一度フードトラックで再起をかける旅にでる。夏休みの息子パーシー(エムジェイ・アンソニー)と、レストラン時代からキャスパーを慕っていて、キャスパーが去った後に得た、スーシェフ(2番手のシェフ)の地位まで捨てて駆けつけた気さくなマーティン(ジョン・レグイザモ)とアメリカを横断しながら、親子の絆や友情に支えられ、みるみる人気のフードトラックへと昇り詰めたその先に、意外な結末が待っている。

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 行き届いた台詞のリアリティー、そして活き活きとした人物やレストランの描写がストーリーを丁寧に引き立てていて、みるみるうちに観客を引き込んでしまう鮮やかな映画だ。料理批評家のラムジー(オリヴァー・プラット)のブログで、キャスパーが批難される記事は、まるでほんとうの料理レポートを読まされているみたいだし、スクリーンに突如として現れる半透明のTwitterの画面も茶目っ気たっぷり。そして何より、実際に今ロサンゼルスで人気のサブカルチャーとなっているフードトラック・ブームのパイオニア料理人、ロイ・チョイのもとで修行した腕前を披露するジョン・ファヴローの見事な調理シーンや、次々に出来上がる見た目にも魅惑的でお腹が鳴ってしまいそうな食べ物の数々が壮観の一語。

 華やかで壮大な製作費を擁する世界から離れて、制約がなくインディペンデントな低予算の映画を作りたかったと語るファヴロー監督は、主人公キャスパーの姿と重ねることができる。もちろん、それだけではなくて、自由でやりがいのある仕事だけが導いてくれる本物の成功や幸せについて語っているところが本作の素敵さだと思う。前半の失敗の部分も、スカッと爽快に、不思議とネガティブな感じで描いていない。だから観客は、散々キャスパーにだめだしをするレストランのオーナー役のダスティン・ホフマンにも自然と感情移入することができる。

 ダスティン・ホフマンは、離婚した父と子供との葛藤を描くことにおいて、自身が主演した名画『クレイマー、クレイマー』と本作の類似点を指摘したそうだけど、言われてみると、『クレイマー、クレイマー』では美味しそうなフレンチ・トーストを作って子供に食べさせるシーンがあり、本作『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』では、息子にクロックムッシュを作ってあげて一緒に食べるシーンがある。父親が息子に料理してあげるシーンというのは、お母さんが息子に料理してあげるせつない感じとはまた違って、なんというか、ほのぼのしていていい。

 料理してあげるシーンというと、前半でソムリエ役として登場するスカーレット・ヨハンソンに「これでもか!」っていうくらい、ニンニクがオリーブオイルのなかで気持ち良さそうに泳いでいるペペロンチーノを作って食べさせるシーンも必見。ペペロンチーノもスカーレットも蠱惑的だ。

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 『アイアンマン』でファヴロー監督とタッグを組んだロバート・ダウニーJr.は、キャスパーの元妻イネスのキャスパーよりさらに前の夫でまたしてもお金持ちにしてプレイボーイのマーヴィン役で現れ、キャスパーにトラックを調達してあげるのだが、二人がやり取りするシーンも本作の見どころのひとつと言える。何となく落ち着きがなくて何を考えているかわからない雰囲気のマーヴィンと、元妻への未練が男同士の会話にこそ露呈してしまうキャスパーに、微笑んでしまったのは僕だけだろうか?

 そして、料理とともに全編を彩る音楽にも注目。バックグラウンドに流れる選曲の妙もさることながら、実際に演奏シーンを演じている本物のミュージシャンが抜群にかっこいい。マイアミで訪れるクラブOye Como Ayerで演奏するペリーコことホセ・カリダ・エルナンデスはイネスの父も演じていい味を出している。スペイン語しか話さないし字幕も出てこないけどそうとうイカした親父を演じている。テキサスではブルース・ロックのニュー・ヒーロー、ゲイリー・クラークJr.のライヴを登場人物とともに堪能出来る。

 名優の素晴らしい演技、優れた監督の演出、見とれてしまうグルメの数々、そして踊りだしてしまいそうな音楽、映画って、総合芸術ですね。

 

MOVIE INFORMATION

映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」

この「シェフ」は一味ちがう――
あなたの“おなか”と“こころ”を満たします!

監督・脚本・製作・主演:ジョン・ファヴロー
音楽:マシュー・シュレイヤー
出演:ソフィア・ベルガラ/ジョン・レグイザモ/スカーレット・ヨハンソン/ダスティン・ホフマン/オリヴァー・プラット/エムジェイ・アンソニー/ロバート・ダウニーJr /他
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (2014 年 アメリカ 115 分)
◎ 2015/2/28(土)TOHO シネマズ シャンテほかにて全国ロードショー
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