COLUMN

D'ANGELO AND THE VANGUARD 『Black Messiah』

〈いま出ることの意味〉も備えたタイムレスかつタイムリーな15年ぶりのニュー・アルバム

D'ANGELO AND THE VANGUARD 『Black Messiah』

 2014年12月14日の夕方、NYのホテルで行われたリスニング・セッションにおいて限られた関係者やジャーナリストにのみ公開された後、数時間後の15日真夜中に突如デジタル・リリースされた『Black Messiah』――前年の『Beyonce』に続く演出に、来年こそは驚かないぞ!とも思いつつ、サプライズ自体がさほど重要じゃないのはビヨンセと異なる部分じゃないだろうか(失礼?)。前作『Voodoo』が2000年1月のリリースだったことを思えば、丸15年ぶりのニュー・アルバム。辛抱強く帰還を待ち侘びていたコアなファンにとっては驚きよりも感慨のほうが強いと思うし、何より重要なのは作品の中身であるのだが……いずれにせよ、ディアンジェロが、いよいよ、本当に帰ってきたのだ。

D'ANGELO AND THE VANGUARD Black Messiah RCA/ソニー(2014)

 思い起こせば、アルバムのタイトルが『James River』と報じられ、ブートのストリート盤『James River(Album Prelude)』が出たのは2010年のこと。旧知の間柄にしてRCAのレーベルメイトにもなったマーク・ロンソンの『Record Collection』にて久々の露出があったのも同年のことだし、件のブート盤には新作中のキーとなる“1000 Deaths”や“Really Love”がすでに収録されてもいたから、実際にその頃から新作に向けてのセットアップが始まっていたのは間違いないだろう。それでも、そこからフィニッシュまで数年を要した『Black Messiah』がいまのリスナーの耳にフレッシュに響くのだとしたら、それは彼の用意してきたサウンドが真にタイムレスなものだからに他ならない。

 収録された全12曲は、ヴィンテージ機材を駆使し、レコーディングからミキシングに至るまで完全なアナログ手法で制作されたという。そんな音像の粒立ちは冒頭を粘っこく飾るスライ・ストーン風の“Ain't That Easy”からジワリと伝わってくるはずだ。それに続く“1000 Deaths”は、フレッド・ハンプトン(ブラック・パンサー党の活動家)の暗殺を描いた記録映画から演説をサンプリングし、流出音源にはない煽動性を加味している。そのようにアルバムを聴き進めていくと、今回はスライやファンカデリックマイルス・デイヴィスプリンスといった先人の影響をかつてなく無邪気に表出させているというか、(語弊はあるが)非常に伝統的でわかりやすい楽曲集に仕上がっていることに気付くのではないか。控えめに言っても、初作『Brown Sugar』から『Voodoo』へ歩を進めた時の(良い意味での)掴みどころのなさは皆無で、骨太なカッコ良さや中毒的な気持ち良さが聴くたびにズブズブ馴染んでくるのだ。とりわけ『Emancipation』~『The Rainbow Children』あたりの小気味良さを想起させる殿下マナーの取り込み方は微笑ましいばかりで、そんな屈託のなさも当人がいろんな意味で『Voodoo』の呪いから解放された結果の産物かもしれない。最高である。

 なお、今回は良き理解者のクエストラヴ(ドラムス)やライヴ・メンバーでもあるジェシー・ジョンソン(ギター)をはじめ、『Voodoo』で勇名を馳せたピノ・パラディーノ(ベース/シタール)、ホーン・アレンジも担う馴染みのロイ・ハーグローヴ(トランペット他)、ジェイムズ・ギャドソン(ドラムス)やクリス・デイヴ(ドラムス)ら多数のプレイヤーが参加。リリックはQ・ティップPファンク軍団のケンドラ・フォスターが共作し、ケンドラはコーラスにも加わっている。アーティスト名義に付く〈ザ・ヴァンガード〉というのはそれら参加メンバーたちの総称という意味合いらしく、そんな部分からも主役の意識の変化を受け取ることは可能だろう。

 ただ、〈タイムレス〉と紋切り型に形容してはみたが、この『Black Messiah』は同時に〈いま出ることの意味〉も備えたタイムリーな一枚でもある。ファーガソンでの警官による黒人少年射殺事件が如実に影を落とした“The Charade”をはじめ、コモンルーツらの近作にも通じる嗅覚で時代の空気を敏感に察知したうえで完成されたのは明白だし、改めてブラックネスを前に出すことの有効性もこのタイミングならではという気がする。そして、極めて圧倒的なものしか騒がれなくなった昨今の風潮にもキッチリ乗れるだけの、時代に選ばれる強運も思えば……やはりディアンジェロは〈持ってる〉男、カリスマだと改めて思わざるを得ない。そして……【次号に続く】

 

ディアンジェロ
74年生まれ、ヴァージニア州リッチモンド出身のシンガー・ソングライター。幼少の頃から歌いはじめ、91年にNYに移って活動を開始。ソングライターとしての活動を経てヴァージンと契約し、95年にファースト・アルバム『Brown Sugar』をリリースする。2000年のセカンド・アルバム『Voodoo』が全米1位を獲得。並行してコモンやラファエル・サディークフェミ・クティらとのコラボも話題を呼ぶものの、表立った動きは徐々に停滞していく。2012年のヨーロッパ・ツアーを皮切りに活動を再開し、2014年末にディアンジェロ・アンド・ザ・ヴァンガード名義でのニュー・アルバム『Black Messiah』(RCA/ソニー)をリリース。2月4日にはその日本盤がリリースされる予定。

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