渋谷のストリートを拠点にライヴを繰り広げている巷で噂のジャズ/ヒップホップ・バンド、SANABAGUN。 スキルも確かなプレイヤーたちが鳴らすジャズやファンク、ブレイクビーツにラップ&ヴォーカルを乗せたクール極まりない彼らの音楽は、いったいいかにして生まれたのか――それを炙り出すべく、サナバの構成員に自身の滋養となっているアーティストの作品をカメラの前で紹介してもらう連載がめでたく第2回を迎えました! 今回も高岩遼(ヴォーカル)、岩間俊樹(MC)のフロント・コンビを進行役に、SANABAGUNの映像コンテンツを担う川村静哉監督のもとお届けします!

そんな第2回のゲストは、ドラマー兼バンド・マスターの小さなおじさん、澤村一平。澤村少年の胸を熱くさせたジャズ・ドラマーのリーダー作に、豪華プレイヤーが顔を揃えたテナー・サックス奏者のアルバムを紹介してくれますよ! 取材当日は岩間氏のお誕生日ということで、前半の映像ではややパーティー感が前面に出てしまいましたが、誕生日に免じて許してやってください! なお、映像に収められなかった作品解説はテキストに起こしておりますので、併せてご覧いただければと。

 


 

【前編】

高岩遼「今日のゲストはSANABAGUNのバンドマスター、ドラムスの一平です! CDを持ってきてくれましたか?」

澤村一平「持ってきましたよ、選びに選び抜かれた!」

高岩「何枚中の2枚ですか、これ?」

一平「……4枚」

一同:笑

高岩「4枚中の2枚、すごいね(笑)。家に4枚しかない」

岩間俊樹「なにげに聴いてこなかったねー」

高岩「いままでね(笑)」

一平「YouTubeとかあったからね。CD持ってなかったんだよ……って実際4枚だったらヤバイでしょ、なわけないじゃん」

岩間「いやそうですけど……」

高岩「それでは、一平さんの一枚目を!」

一平「1枚目はブライアン・ブレイド&ザ・フェロウシップ・バンド。知ってるよね? 誰だっけ、ブライアン・ブレイドって」

岩間「……」

一平「そう、ドラマーね。高校の時にコピーしまくってた人なんだけど、これはフェロウシップっていうバンドを従えた『Perceptual』。ジャケットの女の子もめっちゃ雰囲気あんじゃん。これだけでもいいアルバムだなって感じしない?」

BRIAN BLADE & THE FELLOWSHIP BAND Perceptural Blue Note(2000)

高岩「そういうところからも選んでいったと」

一平「そう、ジャケ買い(違います)」

高岩「そういうのも大切ですね」

岩間「これはどうして選んだの?」

一平「当時、ドラムの先生が教えてくれたんだよね。このなかの“Crooked Creek”(映像ではやや発音が違いますが……)っていう曲がめっちゃイイって言われて、レッスン中に……てか、あれだ、俺のドラムのレッスンの話していい?」

高岩「いや……盤の話で」

一平「盤の話?」

高岩「サクセス・ストーリーよりも曲の話をして」

一平「曲の話ね。“Crooked Creek”いう曲がめっちゃイイ曲なの、とりあえず」

高岩「それはどういう感じの曲なの?」

一平「……やっぱちょっとだけドラムの先生の話が必要だわ。ちょっと話していい?」

一同:笑

高岩「わかった(笑)」

一平「ちょっとだけ! その先生はレッスンの時、最初の半年くらいは全然ドラムを触らせてもらえなくて、一緒に曲を聴いて、〈どう思う?〉って。ドラムは生徒用と先生用と2台あるのに」

高岩「ドラムを触らない、半年間。へぇ~……それ詐欺だね」

一同:笑

一平「詐欺じゃない、それが教え方なんだよ(笑)! 俺のガチ師匠だからディスんのやめて」

高岩「なるほど、わかったわかった。それは、詐欺だ(笑)」

一平「帰るわ(笑)」

高岩「帰っちゃだめ、嘘だよ(笑)。それが先生のスタイルだったんだね」

一平「そう、でもこの曲だけはめちゃめちゃイイ曲だから、CDを買って、レッスン中に聴くんじゃないくて一人で夜、寝る前とかにゆっくり聴いてみてほしいって言われて。なんだそれ、初めてそんなこと言われたと思って買って聴いたら、もう涙ですよ、涙」

高岩「泣いちゃったんだ」

一平「実際泣いてはないけど」

高岩「盛ったんだ、いま」

一平「クフ(苦笑)、わかりやすく表現しようと思ってね。先生は、俺がコンテンポラリー・ジャズ好きなことを知っていたので、ドラマーならこれを聴いておいたほうがいいよっていう意味で勧めてくれたんだと思う」

高岩「そうかそうか。“Crooked Creek”っていうので涙したんだ」

一平「そうだね。ブライアン・ブレイドっていうドラマーが高校生の時に超好きで。ブライアン・ブレイドが好きすぎて、ジャズのCDでブライアン・ブレイドが参加してないやつは、彼が素晴らしいドラマーだから他のアーティストのライヴとかレコーディングとかで多忙すぎて、仕方なく違う人が叩いてるんだろうなとガチで思ってたの」

高岩「なるほどね。〈現行のジャズ作品は基本的にブライアン・ブレイドが叩くものである〉と思ってたのね(笑)?」

一同:笑

一平「そうそう(笑)」

高岩「それが一平らしさですね(笑)。じゃあ聴いてみよう」

一平「明かりを消して……消しちゃダメか(笑)」

岩間「まあとりあえず明かりを消していただいて」

一平「では、ブライアン・ブレイド&ザ・フェロウシップ・バンド『Perceptual』より“Crooked Creek”、どうぞ」

※明かりを消してお楽しみください

一平「どう? 感動した? ヤバイでしょ? ホロッときたでしょ? やっぱブライアン・ブレイドのカラーリングにグッとくるんだよね。カラーリングっていうのは曲のバックグラウンドをどう色付けしていくか、っていうことなんだけど、そのセンスや楽器力が本当にスゴイ。ピアノの人(ジョン・カウハード、フェロウシップ・バンドにおけるブライアン・ブレイドの右腕的な存在)が曲を書いてるんだけど、ドラムもすごい堪能できるし、テーマ~ソロ~インタールード~ソロ~テーマという流れがひとつの物語みたいに聴こえるんだよね。これがアルバムのなかでも特別な感じがするのは、そういうところなんじゃないかと。で、実際どうだった?」

岩間「心地良かったですよ」

一平「その程度なの?」

岩間「全部聴いてないし。人がいたから……(ボソボソ)」

一平「影響を受けたものとかルーツになっている音楽はすごくいっぱいあるんだけど、いまの自分のスタイルにいちばん影響を与えているのはブライアン・ブレイドなので、今回はこのCDを持ってきました」

 

【後編】

 

高岩「そんなわけで後半になりますが、2枚目を紹介していただきたいと思います。1回目はおふざけが過ぎましたので、今回はアカデミックな話ができるといいな♪」

一平ウォルター・スミス3世というテナー・サックス奏者の『Casually Introducing』っていうアルバムです。時間がないので喋り続けていいですか?」

WALTER SMITH III Casually Introducing Fresh Sound New Talent(2006)

高岩「いいですよ」

一平「このアルバム、ナウいジャズが好きな人ならわかると思うんですけど、メンツが超豪華で、ウォルター・スミス3世はバークレーを主席で卒業したテナー・サックス奏者で、ベースがルーベン・ロジャースっていうジョシュア・レッドマン(サックス奏者)とかのバンドとかでも弾いてる売れっ子、そしてピアノがアーロン・パークス、コンテンポラリー・ジャズ界のピアノと言えば!という人で、ドラムはボクちんが大好きなエリック・ハーランドですよ」

高岩「エリック・ハーランドも好きなんですか」

一平「大好きだね。高校の時はブライアン・ブレイドだったけど、いろいろ勉強していくなかで、やっぱりエリック・ハーランドがヤベーってなって。俺がずっと背中を追い続けている存在。そしてサイドメンにアンブローズ(・アキンムシーレ)って超上手いトランぺッターと、リオネル・ルエケっていうギタリストと、(フェンダー・)ローズでロバート・グラスパーも参加してるんですよ。グラスパーわかる?」

【参考動画】ロバート・グラスパー・エクスペリメントの2013年のパフォーマンス映像

 

岩間「……」

一平「あとルーベン以外にもヴィセンテ・アーチャーっていうグラスパーのトリオでずっと弾いてるベーシストとか、エリック・ハーランド以外にもケンドリック・スコットっていうスーパー・ドラマーも叩いてる。とにかくメンツが超豪華なの。それで曲もいいんだよ。1曲目からいきなりサム・リヴァースの“Cyclic Episode”のカヴァー曲なんだけど、それが超カッコイイんだよね。サム・リヴァースの曲って“Beatrice”もそうだけど半分スタンダードで演奏されているような曲じゃん。そんなスタンダードと言ってもいいような曲を自分のリーダー作の1曲目で、この豪華なメンツでやっちゃうっていうのが凄いな」

【参考動画】サム・リヴァースの64年作『Fuchsia Swing Song』収録曲“Cyclic Episode”

 

高岩「7曲目の“Peace”もスタンダードですよね」

一平「そうそう、オーネット・コールマンの。このメンバーで演奏するとこんなふうになっちゃうんだっていう衝撃ね。いまをときめくスーパー・ジャズメンが」

高岩「ジャズのオールド・ファンの皆さんにも、最近のジャズが好きな人にもオススメってことだね」

一平「いまの人がスタンダードを演奏するとこうなるっていうね。とにもかくにも聴いてほしいよね」

高岩「僕が気になってるのがね、ジャズマンってってブルースの曲を入れているじゃないですか、〈Take 1〉〈Take 2〉ってブルース表記のアルバムってたくさんあると思うんですよ。でもこのアルバムには“Blues”。これはあとで聴いてみましょう」

岩間「2006年の作品なんだね」

一平「うん」

岩間「〈ナウいナウい〉って言うからいつ頃の作品なのかと個人的に気になってて……」

高岩フレッシュ・サウンドって……」

一平「フレッシュ・サウンド知ってる? ニュー・タレントってレーベルが熱いんだよね。USやヨーロッパの若手で実力のあるミュージシャンが輩出されてるんだよね」

*正式名称はフレッシュ・サウンド・ニュー・タレント。50年代作品の復刻などにも力を入れるジャズ・レーベルのフレッシュ・サウンドを母体とする、新しい才能をフックアップするべく立ち上がったレーベルで、ロバート・グラスパーの初作『Mood』もここからリリースされている

高岩「ウォルター・スミス3世っていうといまやニュー・タレントって感じはしないですけど、まだこの時はね」

一平「まだね」

岩間「これがリリースされた頃はもうすでこのメンツは有名だったんですか?」

一平「有名でしたね」

高岩「(イメージとしては)俺らが30歳くらいになったら……」

一平「そういう感じにいたらいいなっていう目標だね」

高岩「とりあえず、聴こうか」

一平「さっき言ったサム・リヴァースのカヴァーもカッコイイんだけど、2曲目の“Kate Song”っていうオリジナル曲を」

一平「生ピアノをアーロン・パークスが、ローズをグラスパーが弾いてるから」

高岩「その兼ね合いもおもしろいと」

一平「超いいでしょ。テーマの後、ソロの頭が誰のソロからかっていうと、アーロン・パークスとグラスパーのバトルから始まるんだよ。超熱い、展開が」

高岩「へぇ~。やっぱカッコイイですね、めちゃめちゃイイ。これって5拍子っぽく捉えられるよね」

一平「これ5拍子だよ」

高岩「5拍子のかなりルーズな拍のなかですごいことやってるんだけど、いかつく聴こえないところがすごい」

一平「しかも、いまとなっては普通かもしれないけど、エリック・ハーランドが超格好良いソロを取るわけ。それがね、ちょっとリフのパターンが変わって10か11拍子で入るんだよね。この変拍子でこんな綺麗にソロを歌い上げられるんだ~と思って。展開がすごく綺麗で、フレーズの組み方とさ、ちょっとずつアガってく感じ、あとダイナミクスの付け方がエリック・ハーランドは天才的なんだよ。超〈歌ってる〉」

高岩「ヤバイね。色気がすごいね、曲調とかじゃなくて、ドラミングでの色気が。いやいや、イイですね。やっぱりこういうインストゥルメンタルのジャズって、わかりづらい音楽ではあるし、一般的にはなかなか入りづらいじゃん。でもこういうふうに掻い摘んで聴くと、ジャズはアカデミックで深いですよね」

一平「5拍子のポップスなんてないけど、普通に考えると歌詞が付いてるかついてないかだけで、コルトレーンだって歌うし、チャーリー・パーカーのサックスも泣いてるし、それって歌と同じじゃない?」

高岩「肉声かそうじゃないかの違いだよね」

一平「そうそうそう、そういう感じでジャズを聴くと、いまのエリック・ハーランドのソロも〈あれ? 歌上手い人じゃん!〉みたいに思えるんじゃないかなと」

岩間「なんか……すごい……歌ってましたね。(2人の)解説を聴いてて思ったんだけど、自分はラッパーじゃないですか。サナバに入って感じたことなんだけど、声をひとつの楽器として捉える感覚っていうのがそれまでの自分には全然なくて、たぶん多くの人が〈歌詞がいい〉みたいに、良い歌詞がメロディーに乗っかってるっていう感覚で聴いてると思うんだけど、音楽を学んだり、音楽をしっかり聴こうとしている人っていうのは、声をひとつの楽器として聴いてるから、ラップでいったらフローとか韻の踏み方を重視してるなと思うんですよね。だから、いまはそれを意識するようにしてるね」

高岩「すごーい(パチパチパチパチ)」

一平「いま気付いちゃったんだけどさ、サム・リヴァースの“Cyclic Episode”でこのアルバム始まってさ、“Blues”で終わるじゃん。これってどっちもウォルター・スミス3世のルーツだって気付いた。というのも、このアルバムのジャケはサム・リヴァースのアルバム(『Fuschia Swing Song』)のジャケとまったく同じで、オマージュなんだよね」

 

 

高岩「へ~。かなり〈俺のルーツ〉的なアルバムなんだね」

一平「これだいぶ気合い入ってるよ」

 

【特別編(後編の続き)】

高岩「それではですね、先ほど“Kate Song”を聴いていただきましたけど、もうひとつは僕のリクエストした曲を聴きたいんですけど。ちょっと紹介してもらえますか」

一平「9曲目の“Blues”っていう曲で。遼はブルースがすごい好きなんだよね、いなたいやつ。でもこの人たちが演奏すると、〈え、これブルースなの?〉ってなる。俺はいまでもまだよくわからない。ドラム、ベース、テナー・サックスのトリオでやってるコードレスな曲なの。とりあえず聴いてみようか」

※編集部より:残念ながら“Blues”の音源をここでお聴かせできませんので、こちらから試聴してください

一平「これさ、どう思う? 遼が知ってるブルースと比べて」

高岩「従来の南部の匂いがするブルースっていうものが北部のほうに上がって都会的になって、ビバップとかハードバップとか細分化されたコード進行のものがジャズでのブルースになってるけど、これはセブンス感のあるブルースには聴こえないよね。かつ、いまパッと聴いてブルースっぽいフレージングも感じないし。だからこそタイトルが“Blues”っていうんじゃないかなと思った。むちゃくちゃカッコイイ」

一平「流石っすね。もしこれが“Kate Song”みたいなタイトルだったら誰もそういうこと意識せずにコードレスのすごい曲、くらいにしか思わなかったかもしれないけど、最後の曲で〈俺らの世代がやるブルースはこれなんだぜ〉っていうのを持ってくるところにメッセージ性を感じる」

高岩「そうだね。ウォルター・スミス3世の〈スタンダード〉を入れて、自分らのブラック・ミュージックのルーツはここにあるぜっていうメッセージがここに置かれてる気がする」

 

PROFILE:SANABAGUN


 

 

高岩遼(ヴォーカル)、岩間俊樹(MC)、隅垣元佐(ギター)、小杉隼太(ベース)、高橋紘一(トランペット)、谷本大河(サックス)、櫻打泰平(キーボード)、澤村一平(ドラムス)から成る8人組。2013年に結成。渋谷のストリートを中心としたライヴで話題を集める。2014年にGAGLEと共演を果たしたのをはじめ、じわじわと評判を広げて同年にファースト・アルバム『Son of a Gun』(Pヴァイン)をリリース。アルバムの発売記念ライヴをMOTION BLUE YOKOHAMAで行うなど、スケールを拡大しながら活動中。最新情報はバンドのTwitter、ライヴ情報はTumblrをチェック!

【参考動画】SANABAGUNの2014年作『Son of a Gun』収録曲“M・S”