Photo by Shigeto Imura

バッハからコンテンポラリーへ そしてバッハからブーレーズへ

 東京オペラシティのリサイタルシリーズ〈B→C〉(ビー・トゥ・シー)にサックス奏者が登場するのは今回の佐藤淳一が4人目。〈バッハからコンテンポラリーへ〉という本来のコンセプトに加え、〈B→B〉(ビー・トゥ・ビー)に基づくプログラムを披露する。

 「B→Bで表現したいのは、バッハからブーレーズに向かって音楽がどう変わっていくか、あるいは変わらないか。例えば、和声感は時代ごとに変わっていきますが、対位法への興味はバッハもブーレーズも変わっていません。そういった部分に注目していただきつつ、敢えてサックスに特化した曲だけで固めず、幅広いアプローチでお楽しみいただける曲を選びました」

 本番ではライブ・エレクトロニクス、映像、朗読など、マルチメディアを駆使した演奏になるという。

 「J・t・フェルドハウス(ヤコブTV)の“ザ・ガーデン・オブ・ラブ”はサックスのインパクトを知り尽くした作品ですが、同時に(サウンドトラックから流れる)声とサックスの融和性という点でも素晴らしい。今回の演奏では、映像とのコラボを予定しています。フェルドハウスはW・ブレイクの詩を用いて作曲しましたが、同様にブリテンも(古代ローマ詩人)オウィディウスの詩に基いて“オウィディウスによる6つの変容”を作曲していますので、各曲に付けられた詩の朗読と演奏をサンドイッチしてご紹介しようと」

 19世紀以前からはバッハの“無伴奏チェロ組曲第2番”とブラームスの“クラリネット・ソナタ第2番”。

 「サックスは、どうしても近現代の作品にレパートリーが偏りがち。本来重要な歌い方のイロハを学ぶ機会が少ないです。僕自身はビルスマの演奏が好きなので、彼のようにバロック以前からバッハにアプローチする歌い方が出来ればと。後期ロマン派からはサックスと相性のいいブラームスを選びました。原曲とアルト・サックスの調性が同じという利点も大きいです」

佐藤淳一によるベリオ作曲“Sequenza VIIb”(セクエンツァVIIb)の2007年のパフォーマンス

 ブーレーズ“二重の影の対話”サックス版は、2009年に佐藤が日本初演。そして“セクエンツァVIIb”のベリオは佐藤が博士論文で選んだ作曲家だ。

 「ブーレーズは原曲のクラリネット版と比べると、音の煌きとダイナミクスでサックスに優位がありますが、クラリネットのために書かれた素晴らしいレガートをサックスでどこまで表現できるか、そこがチャレンジングなところですね。博士論文ではベリオの注釈技法をテーマにしましたが、僕の解釈では、それは“人間の営み”に対する注釈だと思うんです。例えば、彼がバッハに注釈をつけて曲を作るのは、“おふくろの味”を真似て作った味噌汁が新しい味になるのと同じようなもの。ベリオはとても人間性溢れる作曲家なんです」

 


LIVE INFORMATION
B→C(バッハからコンテンポラリーへ)
佐藤淳一 サクソフォンリサイタル

2015年3月17日(火)東京オペラシティ リサイタルホール
開演:19:00

■曲目
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番 ニ短調 BWV1008
J.t.フェルドハウス:ザ・ガーデン・オブ・ラブ(2002)
ブラームス:ソナタ 変ホ長調op.120-2
ブリテン:オウィディウスによる6つの変容 op.49(1951)
ベリオ:セクンツァVIIb(1969/93)
ブーレーズ:二重の影の対話(1982~85)

出演:佐藤淳一(サックス)/羽石道代(ピアノ)/有馬純寿(エレクトロニクス)

https://www.operacity.jp/