(C)2014 Twentieth Century Fox

 

映画監督という職業人からみた、〈前代未聞の長回し映像〉についての思考

 プレス向けのパンフが、本作の大きな特徴であるらしい「前代未聞の長回し映像」について喧伝していた。しかし「全編1カットかと見紛うカメラワーク」と白状してもいるので、どこかで画をつないでいるのは確かなようだ。技法に拘泥した映画が面白かった試しがないので、これを見る前は臭いなと思っていた。

 しかし「1秒のズレもない圧巻の演技」、「一流アスリートのごとく完璧に計算された動き」とも叫んでいた。俳優の動きに一寸の誤差もないよう計算せねばならなかったのは、別々に撮ったカットを自然につなぎ合わせて疑似「全編1カット」を実現させるためだろう。そして「前代未聞」があながち誇張でもなかったのはこの「完璧に計算された動き」についてなのであって、よく似た例をまさしく一流アスリートの仰天の逸話から引くことさえできるのだ。

 江夏豊はシーズン奪三振の日本記録に並ぶ353個目を宿敵の王貞治から奪った。これだけで十分すごいのに、江夏は新記録となる354個目も王から奪ってみせるとベンチで言い放った。従って王の次の打席が巡ってくるまでほかの8人の打者からひとつも三振をとってはならず、江夏は「王を相手に新記録」という悲願達成のために、さらに困難なプロセスに挑むことになったのだ。三振をとれない、かといって接戦なのでヒットも許せない。普段なら簡単に三振に沈められる選手が打席に立ったとき、むしろ江夏は緊張したはずだ。そんないびつな状況下で8人の打者を次々に凡打で討ち取った「完璧に計算された」投球術を思うと、果たして打席に迎えた王を相手に実現した大記録の重みさえ、霞んでしまう。

(C)2014 Twentieth Century Fox

 

 本当に「全編1カット」で撮りきることよりも、むしろ複数のカットを1カットに見せかけるほうがよほど困難なのではないか。「全編1カット」に要する苦労とは、すなわち撮り終えた時点でそれから解放されることを同時に意味している。しかし後者はちがう。撮影後に精密きわまりない修正作業が待っているばかりか、それを見越した上で、撮影時に俳優やスタッフにひたすら正確さを強いることになるからだ。

 この映画は確かに「全編1カット」では撮れるはずのない映像を実現した。しかしその偉業は結果として霞んでいるように思えてならない。大テーマがあまりにも当たり前に実現しているせいで、どうも観客の注意をひかず、かえってその恐ろしいプロセスがもたらした緊張感と創造力の分厚さのほうが、むしろ本作を「前代未聞」なものに高めているのだ。その恐ろしさはこの映画と真逆の方法、つまり通常の映画の数倍のカット数で構築された大島渚『白昼の通り魔』にも通じている。映画の豊かさとは、テーマを超えるプロセスによって成り立っているのかもしれない。

 

MOVIE INFORMATION

映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」

監督・編集・脚本:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
ドラム・スコア:アントニオ・サンチェス
出演:マイケル・キートンザック・ガリフィナーキスエドワード・ノートンアンドレア・ライズブローエイミー・ライアンエマ・ストーンナオミ・ワッツ
配給:20世紀フォックス映画 PG12(2014年 アメリカ 120分)
◎4/10(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー!
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