心休まる音色、そしてエレクトリック・ハープを用い、バラエティ豊かに

 イタリアのハープ奏者チェチーリア・シャイーが来日したが、それにあわせて2枚の録音がリリースされた。1枚はイタリアの作曲家ルドヴィコ・エイナウディが作曲したエレクトリック・ハープのための作品集『スタンツェ』、もう1枚はシャイー自身のハープのための作品を集めた『レ・ミ・コルデ』である。いずれもハープという楽器の個性を生かしつつ、シャイー独自の世界を展開したもので、クラシック音楽ファン、現代音楽ファンだけでなく、心休まる音楽に関心を持つ方にもぴったりの作品集となっている。

 「ルドヴィコ・エイナウディとは音楽院時代の同級生で、その頃から親しく、一緒に演奏活動を行ったりしていました。ある時、楽器屋さんの倉庫で偶然にエレクトリック・ハープを発見し、興味を持ちました。エレクトリック・ハープは機構が複雑で、それをきちんと鳴らすのも手間がかかりました。それでも、その楽器の可能性を追求してみようということで、エイナウディと取り組んだのが『スタンツェ』でした」

CECILIA CHAILLY 『Ludovico Einaudi: Stanze』 Decca/ユニバーサル(1992)

 エイナウディは1990~92年にかけてこの“スタンツェ”を作曲し、シャイーはその世界に挑んだ。実際の録音もかなり緻密に音響を計算しながら行い、録音後も音響効果を考えながらマスタリングを行ったという。その結果、通常のハープの音楽よりも、より複雑で、奥行きのある世界が作り出された。

 シャイーという名前に記憶のあるクラシック音楽ファンも多いだろうが、実際のところ、チェチーリアは指揮者として活躍するリッカルド・シャイーの妹であり、父親のルチアーノ・シャイーはイタリアを代表する作曲家、音楽学者である。音楽一家の出身なのだ。

 「ハープを私に勧めてくれたのは母親でした。最初はピアノよりもなんか面白そうという程度の興味でしたが、次第にこの楽器に惹かれていきました。そして音楽院で本格的に学ぶことになったのですが、ハープは楽器の移動などに様々な困難があって、それは母も気付いていなかったので、後になって、どうしてこんな大変な楽器を選んだのだろうと愚痴ったものです」

 父であるルチアーノの作品が『レ・ミ・コルデ』に収録されている。

 「これは父が私のために書いてくれた作品です。知的に考えられており、とても好きな作品です。他の作品は全部自作で、最近の私の活動、音楽への関心が分かって頂ける作品集となっていると思います」

CECILIA CHAILLY 『Le Mie Corde』 Sony Classical(2013)

 そのアルバム・ジャケットも家族が持つ北イタリアの別荘で撮影された写真などが使われている。世界の様々な音楽に影響を受けたというチェチーリアらしい音楽が詰まっている。