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血みどろの160分を現代版スクリューボール・コメディとして満喫せよ!

 結婚5年目の記念日を迎える、その日、誰もが羨む完璧な女性であったはずの妻が突然行方を暗まし、家には何らかの犯罪が行われたらしき痕跡が残る。片田舎の街にマスコミが殺到するなか、夫に殺害の疑惑がかけられるに至るのだが……。

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 まずはストーリーテリングの巧みさが光る。観客の視線は呆然と取り残された夫に自然と集中し、彼への感情移入を誘われるが、その現在に流れる時間=物語が、妻によって綴られる日記と彼女のボイスオーヴァーで喚起される過去=物語によってたびたび寸断される。ロマンティックな出会いからやがて殺伐なものとなる二人の結婚生活の経緯が妻の視点から回想される一方、現在時制ではやや掴み所のない夫が年下の愛人と密会を重ねていた事実まで明らかになるのだから、彼の犯行が疑われても当然であるかもしれない。しかし、冒頭から(現在時制において)“不在の人”であり続ける妻の証言=回想を本当に信じていいのだろうか。彼女が物語論の語彙で言う“信頼できない語り手”である可能性もあるのではないか。こうして、もはや誰を信じて物語を追えばいいのかわからなくなる。

 とはいえ、本作が複雑怪奇なストーリ-展開で観客を煙に巻く類いの映画ではない点を強調したい。そしてその“透明性”は、本作が1930年代から40年代にかけてのハリウッドで量産されたスクリューボ-ル・コメディの実り豊かなヴァリエーションであることに由来する。それぞれに個性的な“変人”である夫婦が離婚の危機に直面し、喜劇的な闘争を繰り返しながらも最終的には別れることができずに終わる展開が同ジャンルの“ゲームの規則”なのだが、フィンチャーはそれを大胆にも再生させようとするのだ。ただし、かつてのハリウッドでは血を一滴も流すことなく、90分の尺で優雅に描かれた内容が、本作では血みどろの悲喜劇的闘争としてたっぷり160分をかけて描かれるのだが……。すばらしいことだと思う。僕らは紛れもない“映画の現在”をこの傑作に見出すことができるのだ。